ソフトウェア・シンポジウム 2022 in 盛岡

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ソフトウェア・シンポジウム 2022 にご投稿いただいた論文/報告/Future Presentation に対して,プログラム委員会で審査を行い,下記を採択いたしました.

皆さま,ご執筆,ご投稿いただき,ありがとうございました.

時間 トラック1 トラック2
6/8(水)
14:30-15:20
データ駆動・検証
Future Presentation 1
6/8(水)
15:35-16:50
教育・プロセス
Future Presentation 2
6/9(木)
9:10-10:25
品質・信頼性
要求・仕様

データ駆動・検証

最優秀論文賞
[経験論文]
深層学習における正則化へのドロップアウトデザインの適用
熊澤 努 (SRA),地嵜 頌子 (大阪工業大学),中川 智之 (東京理科大学),室井 浩明 (ヱヂリウム株式会社),渡邉 卓也 (ヱヂリウム株式会社)
要旨:
深層ニューラルネットワークの汎化性能を向上させる正則化法に,学習時に一部のノードだけを活性化するドロップアウト法が知られている.ドロップアウト法が活性化するノードを無作為に選択する技法なのに対して,ノードと重みを1エポックの訓練で均一に選択する,ドロップアウトデザインと呼ばれる組合せ構造が提案されている.しかしながら,正則化の効果については不明点が多く,実験を通じて解明されることが望まれてきた.本論文では,ドロップアウトデザインの性質を明らかするために,ドロップアウトデザインを用いた正則化法を多層パーセプトロンに適用した.4種類のネットワーク構成について,画像分類問題の精度と損失を評価する実験を行い,すべてのネットワークについてドロップアウト法と同程度の汎化性能を示すことを確認した.一方で,ドロップアウトデザインに固有の特徴的な結果は観察されなかった.以上の成果は,ドロップアウト法とドロップアウトデザインをより深く理解するための手掛かりを今後の研究に提供することが期待される.
経験論文

[経験論文]
OSSの参加者は何を求め,何を得ているのか? - 利用者と参加者の行動の視覚化 -
増田 礼子 (フェリカネットワークス),松尾谷 徹 (有限会社 デバック工学研究所)
要旨:
オープンソース・ソフトウェア(OSS : Open SourceSoftware)作品は広く利用され,利用者視点からの分析は消費者行動の枠組みで調査・研究が行われている.一方,その作品を支えているエンジニア(広く参加者と呼ぶ)の行動についての調査・分析には課題がある.オープンサイエンスにおけるナレッジの有用性評価の一つの指標として参照量が考えられるが,ナレッジが持つ価値は多様であり,参照量だけでは評価できない.我々はエンジニアがGitHubからどのように学び,成長するのかについて,ナレッジの参照や影響を有用性の特性として捉え,指標化を試みている.我々の研究目的はエンジニアの育成や組織化における「意欲」をOSS活動の「行動」から学び活用することである.ここでは,その入口として探索的な計測と分析について報告する.課題は,「行動」を分析するために何を測りどのように分類するのか,である.
本研究では,有用性の特性を捉えるため,時系列での型の違いに注目した.本研究では,時系列分析を用いて行動記録の視覚化を行い,他の分野では見られない特徴的な型を抽出できることを示す.この分析の前処理としての課題に,膨大な数の対象から,分析対象を合理的に選び出すための層別がある.この課題については順位を用いたクロス表により対処した.
経験論文

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Future Presentation 1

[Future Presentation]
仕組み提案:“技術を持つ人”と“その技術を欲している人”をつなぐマッチングソフトはつくれるだろうか?
本多 慶匡 (SEA Hokkaido)
要旨:
“ソフトウェア技術を持つ人”と“その技術を欲している人”をつなぐ仕組みを,マッチングアプリを応用して作れるのではなかろうか?
“出来る人”と“欲しい人をつなぐ”.“出来ているもの”と“欲しい人を”つなぐ.“会社”と“学校”をつなぐ.“会社”と“会社”をつなぐ.ここで取り上げたいのはマッチングアプリの可能性です.
Future Presentation

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教育・プロセス

[経験論文]
大学教育における電子商取引システム開発演習事例およびチーム内の役割分析
増田 聡 (東京都市大学),松尾谷 徹 (デバッグ工学研究所)
要旨:
大学教育においても電子商取引(EC)の講義および演習が行われており,教育効果を高めるためどのような演習とするかが課題となっている.本論文では,ECシステムとしてWebコンテンツ管理システムのWordPressおよび電子商取引機能のプラグインソフトウェアであるWelCartを基に,ECサイト開発演習を行った経験から得た知見を共有し考察する.受講生へのアンケート回答およびコメントから好意的に受け入れられていることが見られたが,回答項目の因子分析や主成分分析では特筆すべき傾向は見当たらなかった.また,演習サーバーへのアクセス数と開発したECサイトの評価にやや正の相関を見ることができた.さらに,チーム内の役割について分析したところ,役割を決める前後でECサイト開発者のアクセス数が相対的に増えるなど,役割による変化が見られた.
経験論文

[経験論文]
カスタマーサクセスによる業務プロセス改善の分析とシステム拡張応用~
サブスクリプションモデルにおけるシステム開発のための一つのアプローチ~
八木 将計 (株式会社日立製作),大澤 郁恵 (株式会社日立製作所),堀 光孝(株式会社日立製作所),丸田 絃心 (レクシエス株式会社)
要旨:
本論文では,サブスクリプションモデルで重要になるカスタマーサクセスの実現において,業務モデリング手法PReP (Products Relationship Process) Modelを活用する方法を提案する.サブスクリプションモデルは,継続利用を前提とし,絶えずシステムやサービスを拡張・アップデートしていくことが重要となる.カスタマーサクセスは,システムやサービスをユーザーに使いこなしてもらうことで,継続的な利用を推進する活動である.そのカスタマーサクセスでは,顧客の業務理解が非常に大切になるが,専任者となるカスタマーサクセスマネージャのスキルや経験に依存するという問題がある.本論文では,PReP Modelをサービス分析に応用することで,顧客業務の目的とサービスの関係性を構造的に理解でき,効果的にシステムの機能拡張に繋げることができることを示す.
経験論文

[事例報告]
「オントロジー」など「汎用語」の情報処理分野への転用史
塚田 良央,佐々木 千春,漆原 憲 (株式会社ジェーエフピー),栗田 太郎 (ソニー株式会社)
要旨:
新たな語の登場は,既存の学問や産業領域の転換を想起させてきた.そう考え,情報処理分野で広く用いられている「システム」など,いわば「汎用語」の変遷をたどってみた.本論文で扱う語は,「アーキテクチャ」,「オントロジー」,「システム」,「モデル」とした.変遷とは他の分野からの語の転用(導入)や変化などを指す.これらが,われわれの開発現場にどう影響するのか,効果はどうか,を探ってみた.
「システム」や「アーキテクチャ」は導入当初はいかであれ,いまは不可欠で誤解の生まない,あるいは生みようのない語で,特に「システム」などはどの分野でも,また日常生活のどこででも使用されている語になった.しかし,語の普及また定着の一方で,「システム」などは時代の要請から安全などが問われ,語もまた例えば「system-theoretic(システム理論的)」などと意味を発展させた新たな方法論が進展している.
「モデル」は説明されることはあっても,定義はされない語ではないかと思われる.なんでも「モデル」になる,と時に陰口も聞くが,定義されない,したがって他を定義する語としての役割があるようである.陰口もここに起因するなら「モデル」に罪はなく,むしろ,業界には孝行息子というべきである.
時代の課題(要請)があり,新たな語が投入される.それぞれの語を概観しつつ,最後に「オントロジー」に少し紙幅を費やすこととした.Web上,また要求仕様分野など,「概念」の「存在」のための方法論であるが,哲学から借りた用語である.
事例報告

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Future Presentation 2

[Future Presentation]
プロセスモデルの補完方法 -モデル・ノウハウ・人-
阪井 誠 (株式会社SRA)
要旨:
本稿では,モデルを補完してソフトウェア開発プロセス(以下プロセス)を成長させる方法について議論する.プロセスはモデルだけでなく,実践するノウハウや人が必要であり,モデルに不足するノウハウを議論することで,新しいプロセスに追加すべきものを明確にし,プロセス改善に役立てるのである.この提案を通して,プロセスの議論が,どのように改善し,成長させていくかといった前向きでオープンな議論に発展することを期待する.
Future Presentation

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品質・信頼性

[研究論文]
模範解答を用いたコンパイルエラー箇所指摘の高精度化
中井 亮佑 (大分大学),紙名 哲生 (大分大学)
要旨:
C言語は今でも多く用いられ,プログラミングの入門用の言語としてもよく使われる.しかし,プログラミングの初学者にとって,コンパイラが表示するエラーメッセージは理解しにくい.本論文では,既存のコンパイラが,ブロック構造の閉じ括弧‘}’を忘れた際に誤りの原因となっている行番号を正しく指摘することができない点を改善するために,模範解答と初学者のプログラムを比較し,その差異によってプログラム中のブロック構造の閉じ括弧‘}’忘れとその位置を指摘する方法を提案する.具体的には,構文解析器が処理するソースコード中の構文要素をイベントとして抽象化し,模範解答と初学者のプログラムのイベント列を比較する.提案手法を評価するために,コードベースを収集し,それらのブロック構造の閉じ括弧‘}’を筆者が適当に削除し,そのコンパイルエラーとその位置を正確に検出できるかを確認した.その結果,収集したコードベースの約半数のコンパイルエラーとその位置を検出することができた.また,被験者を用いた実験も行い,イベント列の抽象化の妥当性を確認した.
研究論文

[経験論文]
ソフトウェアレビュー研究結果の認知拡大と適用促進
安達 賢二 (株式会社HBA),中谷 一樹 (TIS株式会社),上田 裕之 (株式会社DTSインサイト)
要旨:
日本科学技術連盟ソフトウェア品質管理研究会(以降,“SQiP研究会”とする)レビュー研究コースでは,当初から30本ほどの研究論文を発表している.しかし,議論を重ねて生み出した研究結果が,それを必要とする現場の実務者や管理者にあまり知られていない,活用されていないという現状がある.その打開を目指して方策を検討し,最初の一歩となる公募型ワークを実施して一定レベルの効果を獲得できた.一方で今後の課題が明らかになった.
経験論文

論文奨励賞
[研究論文]
ソースコードコメントに着目した不確かさとソフトウェア品質の関係調査
渡邉紘矢,崔 恩瀞,水野 修 (京都工芸繊維大学)
要旨:
ソフトウェア開発中には開発者の知識不足により,既存プロジェクトのソースコードを十分に理解出来ないことがある.不確かさによるソースコードの複雑化は,ソフトウェアの品質や保守性に影響を与えている可能性があるが,この実証研究はまだ行われていない.そこで,本研究では,ソースコードコメントに存在する不確かさに着目し,不確かさによってソフトウェア品質にどのような影響があるかを調査した.具体的には,まず,ソースコードや設計に問題がある可能性を示す指標であるコードスメルと,ソースコードの品質メトリクスとして利用される循環的複雑度とクラス結合度を用いて,不確かさを表すキーワードをコメントに持つソースコードは品質が低いか調査した.調査の結果,不確かさはコードスメルの数への影響は見られないが,不確かさの影響を受けやすいコードスメルがあることがわかった.また,不確かさがあることで,C/C++,Pythonでは循環的複雑度が高く,C++,Pythonではクラス結合度が高くなることがわかった.
研究論文

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要求・仕様

[研究論文]
建築設備自動制御のソフトウェアへの問題フレーム適用について
井口 日文,中谷 多哉子 (放送大学)
要旨:
近年,建築物の冷房用冷熱源設備の自動制御設備(以下、自動制御設備)で利用が増えているProgrammableLogic Controller(以下、PLC)のソフトウェアを開発する際、ソフトウェアの機能を記述する手法は,建築設備設計者に任されている。従来,案件ごとの制御の内容が大きく違わなかったことや,ソフトウェアの定義が必要ない制御で済んでいたため,ソフトウェアの機能定義の要領が確立されておらず,機能の記述をコメントで済ませる設計者も多い.その結果,PLCソフトウェアのテストや改修の際,ソフトウェアに建築設備設計者の設計意図が反映されていることを確認することが困難になっている.自動制御設備に期待される機能は高度化,多様化しており,ソフトウェアの機能が複雑になってきている.ソフトウェアの機能を分析し,定義をする手法が必要であると考えられる.
本研究では,PLCの機能を構造化する手順として,問題フレーム(Problem Frame)を導入することで,ソフトウェア機能記述の構造化を試みた.また,作成した問題フレームが建築設備の実務者に理解されるものであることをインタビューで確認した.
研究論文

最優秀発表賞
[経験論文]
COTS利用プロジェクトへのGSNの適用
田中 康 (有限会社ケイプラス・ソリューションズ,奈良先端科学技術大学院大学)
要旨:
業務改革や新サービス開発,そして,ITシステムの新規開発およびシステム刷新プロジェクトのコスト超過や有用性実現の失敗を解決するために,業務プロセス設計主導によるシステム要件定義の取り組みを行なっている[1].しかし,業務プロセス設計はユーザ企業の参画含め,現状の業務プロセスを分析し,改善のための業務プロセスを再設計するといった一連の過程を踏む必要があり,期間とコストがかかることが実施を困難にする要因のひとつであった.
業務での活用思想が明確なCOTS(Commercial Off-The-Shelf)製品を適用するプロジェクトでは,業務プロセス設計フェーズにGSN(Goal Structuring Notation)[2]を適用することによって,現状プロセスのモデル化と分析の過程を踏まずに,あるべき業務プロセスをトップダウンに設計することができ,さらに,実働,期間共に大幅な短縮を実現することができた.
経験論文

[研究論文]
機能共鳴分析手法FRAMによる遠隔授業のシナリオ分析の視覚化
日下部 茂,小佐古 巴菜,有田 大作 (長崎県立大学)
要旨:
教育への情報処理技術の導入が進む事例も増え,教育に関するITインフラや教育者側のIT利活用能力の差が教育効果に影響を与える懸念も生じている.我々は,このような懸念の解消のため,ソフトウェア工学の知見の援用を試みている.ソフトウェア工学のうち特にプロセスとモデリング技術により授業IT化の効果的実現や継続的改善を体系的に支援することを目指している.計算機に閉じたソフトウェアの実行と異なり授業の実施には必ずしも数理的,定量的な評価が適するとは限らない人や組織の振舞いが含まれるため質的アプローチの活用を試みた.特に遠隔授業に焦点を当て質的アプローチの一つであるインタビューを行ったところ,同一授業であっても,学生により評価が異なることがあった.そのため,モデリングには変動を前提に失敗だけでなく成功にも着目するレジリエンスエンジニアリングの手法FRAMを用いた.インタビュー結果もふまえたFRAMの図式表現により相互作用を視覚化し遠隔授業のシナリオ分析を行い,改善のため検討を行った.
研究論文

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