ソフトウェア・シンポジウム 2021 in 大分 (オンライン開催)

大分の写真

SSでは,例年,最優秀論文賞,論文奨励賞,最優秀発表賞(ベストスピーカー賞)の3つの表彰を行っています.今回の受賞論文と著者は次のとおりです.

■最優秀論文賞

[研究論文] アリコロニー最適化法を用いたモデル検査の効率化のための探索戦略
熊澤 努 (株式会社SRA),滝本 宗宏 (東京理科大学),神林 靖 (日本工業大学)

要旨:
モデル検査は,ソフトウェアシステムの挙動を記述したモデルが,望ましい仕様を満たすかどうかを検査する形式的検証技術である.モデルや仕様には,有向グラフを用いた状態遷移モデルによる表現を採用することが多い.モデル検査は,モデルと仕様によって構成される状態空間を探索して仕様違反を発見し,反例として返す.モデル検査では,状態の指数関数的な増加のために検査が困難になる状態爆発問題が知られているが,加えて,反例の可読性を高めることも重要である.これらの問題を解決するために,群知能の一種であるアリコロニー最適化法を用いた検査技法が提案されている.これは,状態空間を非網羅的に探索することで,状態爆発問題を軽減し,同時に可読性の高い短い反例を求める方法である.本論文では,アリコロニー最適化法によるモデル検査技術の更なる効率化のための探索戦略を提案する.提案する戦略は,アリコロニー最適化法を用いた従来の技法よりも広範囲に渡る探索を実現し,大規模なモデルに対しても反例の発見を速めて状態爆発を低減する.従来法との性能評価実験を行い,提案する探索戦略が実行時間の高速化と消費メモリの低減を向上させ,効率的な探索を実現することを確認した.
研究論文

[研究論文] ゴール指向要求分析とシステム安全分析を利用したAIシステム品質の個別ガイドライン導出方法の提案
相津 一寛 (パナソニック株式会社),石川 冬樹 (国立情報学研究所),小宮山 英明 (コニカミノルタ株式会社),栗田 太郎 (ソニー株式会),柳原 靖司 (ブラザー工業株式会社),徳本 晋 (富士通株式会社)
要旨:
本論文では,AIシステムの品質を保証する手段として,IGDM-AIQA法(Individual Guideline Derivation Method in AI system Quality Assessment)を提案する.現在,AIシステムは多くの分野で開発,運用されているにも関わらず,その特性から品質保証の方法が確立されていない.このような問題に対し,AI開発の知見を集約してガイドライン化することが議論されているが,これらガイドラインは有識者向けで抽象度の高い内容となっており,AIの知見が必ずしも十分でない品質保証担当者が効果的に活用できるとはいえない.IGDM-AIQA法を用いることで,対象システムの要件に基づいて品質アセスメントに必要な観点を導出し,品質保証の現場担当者が精度良く品質アセスメントを行える.

研究論文

■論文奨励賞

[研究論文] 自然言語処理的アプローチによるクラス図関連線の予測
井原 輝人 (奈良工業高等専門学校),内田 眞司 (奈良工業高等専門学校)
要旨:
ソフトウェア品質特性[1]の一つに理解性がある.理解性とは,成果物を読み手が容易に理解できるかを指す.UML図における理解性を定量的に表現できれば,評価値に基づいた設計品質の評価や向上に繋がると期待される.しかし,理解性は個人の感覚や経験則に依存する部分が大きく,定量化する実用的な手法は存在していない.中村[2]らは読み手の理解性が図の構成要素個々の妥当性判断に基づいて行なわれていることに注目し,妥当性を定量的に評価するメトリクスの定式化を試みた.しかし,UML図においては個々の図形要素が複雑に関連付けられ得るため,理解性に影響を与える要素とそれらの関係性をすべて定式化することは極めて困難である.
よって我々は同様の目的に対して機械学習を用いた妥当性の定量化を提案する.本研究ではその第1段階として,関連線の種類の予測を行うモデルを作成した.被験者実験を実施し,モデルの予測結果と,被験者の判断結果を比較したところ,高い精度で一致したことから,予測モデルは個々の関連線の人間による関連線に対する妥当性評価を摸倣可能であるといえ提案手法で関連線の種類において理解性の定量化が可能であることが明らかとなった.関連線の種類や命名の妥当性を予測モデルに基づいてUML図の理解性について部分的に定量的な評価可能となることを示した.今後,他の要素も含めた予測モデルへと拡張をすることでUML図(クラス図)全体の理解性評価手法に結びつけられると期待される.

研究論文

[研究論文] 深層学習を用いたプログラム品質向上のためのソースコード画像分析手法の提案
小川 一彦 (放送大学),中谷 多哉子 (放送大学)
要旨:
我々は,画像認識と物体検出のアルゴリズムを用いて,ソースコードを画像化してプログラムの不具合の可能性のある箇所を指摘可能であることを検証した.不具合を起こすプログラムは見た目に共通点があり,教師あり学習の深層学習を用いて学習を行うことで,同様の不具合のある箇所を指摘すると考えたのである.教師あり学習の深層学習で,画像に変換したソースコードを学習させるため,動物や人工物などを学習する場合と同じ手法,パラメータを用いて学習させても,精度は上がりにくい.プログラムの不具合を推論させるために,画像に変換したソースコードが教師ありの深層学習で正しく学習されなければ,高い精度で推論を行うことはできない.作成した学習データが正しく学習されるため,学習データをどのように作成すればよいか,学習が行なわれるための深層学習のパラメータの選択はどうすればよいかということを明らかにする必要がある.本研究では,画像認識と物体検出のアルゴリズムを用いて深層学習を行う際に,学習のためのデータをどのように作成することで,教師あり学習の深層学習で学習することができるか明らかにする.併せて,各アルゴリズムで作成した学習モデルを使用して被験者のプログラムを推論した結果の比較と検証を行なう.

研究論文

[研究論文] ソフトウェア信頼度成長モデルとベイズ統計機械学習によるオープンソースソフトウェア動的信頼性モデルの提案
杉山 透 (放送大学),中谷 多哉子 (放送大学)
要旨:
近年,産業界でオープンソースソフトウェア(OSS)を製品ソフトウェアに組み込んで使用することが増えてきているが,品質,特に信頼性に課題があると指摘されている.しかし,信頼性を評価するための既存のソフトウェア信頼性モデル,特に動的信頼性モデルはOSS特有の開発形態と合っていないことが指摘されている.そこで,従来の動的信頼性モデルを取り込んだ状態空間モデルとベイズ統計機械学習による信頼性モデルを,従来の動的信頼性モデルに加えてOSS特有の開発形態を考慮した動的信頼性モデルとして提案し,)実際のOSSの故障発生件数の予測を行った.提案手法を用いた予測結果を,従来の動的信頼性モデルにより同様の予測を行った結果と比較し,評価を行った.

研究論文

■最優秀発表賞

[事例報告] 子供たちの学びたい欲求を引き出すオンラインツール
根本 紀之 (アジャイル札幌),野尻 育代 (北海道北見市立上仁頃小学校)
要旨:
Covid-19の広がりに伴い,ソフトウェア業界ではZoomやTeamsやDiscordなど急速にオンラインツールが普及した.そのうちの一つにオンラインホワイトボードのmiroがある.これは複数人が同時に作業可能なアジャイル開発向けの オンラインのツールである.一方,Covid-19は北海道の地方都市での教育にも影響を及ぼしており,北見の小学校では下記の問題が発生し,解決策を模索していた .
・突然臨時休校になり,授業が進まない
・登校可能になった 後も,子供たちの安全な距離を保ちながら学ぶ環境を整えなくてはならない

事例報告

[経験論文] UNIX機におけるIoT機器制御のためのタイミング管理
松浦 智之 (有限会社USP研究所),柳戸 新一 (有限会社USP研究所),鈴木 裕信 (有限会社USP研究所),大野 浩之 (金沢大学)
要旨:
さまざまな電子デバイスをIoT機器として活用するためには,UNIX系OS搭載コンピュータ(以降,UNIX機)と接続・連携できると都合が良い.なぜなら,UNIX機はTCP/IPスタックを既に持っていて,かつ広く普及してるなど,開発や保守にかかるコストを抑えられるという期待が持てるからである.しかし,UNIX機からそれら電子デバイスを直接制御する場合には,解決しなければならない課題が多い.例えば,プリエンプティブなタスクスケジューラや,パイプライン上のバッファリング機能などにより,制御にとって重要な「タイミング」を損なう要因がUNIXにはいくつかある.また,POSIX(POSIX.1-2017)の範囲では精密なタイミング管理のためのコマンドも十分に揃っていない.
そこで著者らは,タイミングの変動を低減あるいは管理可能にするためのアイデアと,それに基づくコマンドを考案した.ただし,POSIX仕様を逸脱しない範囲のUNIX機(POSIX機と称す)で実現するという制約を課した.逸脱するほどUNIXというプラットフォームから外れていき,UNIXが本来持っている高い汎用性や持続性という恩恵が得られなくなっていくからである.そして,新たに作成したタイミング管理コマンドを用い,POSIX機でのPID制御による倒立振子を実現するなど,いくつかの研究で実用性が確認できたため,POSIX機でのタイミング管理実現のための考え方,および作成したコマンド実装について本論文で報告する

経験論文

著者のみなさま,おめでとうございます!