人間中心的なソフトウェア開発

担当プログラム委員: 葉 雲文
ML: ss2009-hci

概要

三つのP(Product, Process, People)がソフトウェア開発において もっとも重要な要因と考えられる。これまでの議論と問題提出の多くはProduct またはProcessに着目している。近年では、ソフトウェアシステムが社会の あらゆるところに浸透しつつあることに伴って、ソフトウェア開発者にのしかかる 責務と競争は重くなる一途である。また、技術の凄まじい発展により新しい開発スキルと 知識の習得も大きな負担となっている。ソフトウェア業界が3K(きつい、厳しい、帰れない) さらに7K(3K+規則が厳しい、休暇がとれない、化粧がのらない、結婚できない)とも 酷評されている中でPeopleという視点からソフトウェア開発にかんして考え直してみたい。

開発者中心という視点からあらゆる側面の問題提出を議論したいが、例として以下のテーマをあげる。

(1)哲学論:工学と物づくり、生産者と職人

ソフトウェア開発を研究する分野としてソフトウェア工学という名前を付けられているように、 工場のメタファーを使って、ソフトウェア開発の品質保証と効率向上を進めてきた。 その工場メタファーの根底にあるのは、ソフトウェア開発者を個体差のない工場労働者ととらえ、 機械のように簡単に取り替えられるテイラー主義である。ソフトウェア工学という言葉が 生まれてから40年も立ったいまでは、その工場メタファーの適切さを再考する必要がある。 日本文化の物づくりの喜びと職人の誇りなどに基づき、個体差と個人性を重んじ活かす ソフトウェア開発方法論が成り立たないであろうか。

(2)道具論:使ってうれしい開発道具

HCIという分野では使いやすいコンピュータシステムを目指している。 しかし、もっとも多くコンピュータを使っているソフトウェア開発者の開発道具の 使いやすさに関する研究は少ない。「工、其の事を善くせんと欲すれば、必ず先ず 其の器を利くす」(論語・衛霊公第十五)で言われたように、開発者にとって使いやすい、 使ってうれしい道具(開発言語や開発環境)は何であろうか。ソフトウェア開発者が ユーザであるという視点から、プログラミング言語の理不尽、APIの覚えにくさ、 開発環境と思考の乖離などの問題について議論してみたい。

(3)組織論:ロマン文化とギリシア文化

IEEE SoftwareとCACMのコラムニストRobert Glassが2006年6月号のIEEE Softwareで ソフトウェア開発文化に関して、ロマンモデルとギリシアモデルの比較を取り上げた。 ロマンモデルでは開発者が組織やチームに歩調をあわせ、決まったアプローチで開発を 進めることにたいして、ギリシアモデルでは開発者がプロフェッショナルの個人として 組織やチームに参加し開発を行う。ロマンモデルはプロジェクトチーム中心の考え方であり、 ギリシアモデルは開発者中心の考え方であるととらえられる。この二つの考え方にそって、 プロジェクトリーダの役割も、進捗を管理するマネジャーとチームメンバーの能力と モチベーションを引っ張り出すコーチとに分けて考えるべきではなかろうか。

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