ソフトウェア・シンポジウム 2017 論文・報告・Future Presentation

ソフトウェア・シンポジウム 2017 にご投稿いただいた論文・報告・Future Presentation に対して,プログラム委員会で審査を行い,下記を採択いたしました.

皆さま,ご執筆,ご投稿いただき,ありがとうございました.

時間 ギャラリー1 ギャラリー2 大会議室 中会議室
6/7(水) 13:20-15:50 テストとデバック
保守,OSS
要求・安全・品質・メトリクス
6/8(木) 9:00-11:00 コード解析
マネジメントとチーム
形式手法、プロセス改善
Future Presentation

ワーキンググループ2「テストプロセス改善を理解する」での発表が2件,ワーキンググループ7「エンジニアのトリセツ」での発表が1件あります.発表時間は,各ワーキンググループのリーダにお問い合わせください.

時間 大会議室(前) ギャラリーE
6/8(木) or 6/9(金) WG2 テストプロセス改善を理解する
WG7 エンジニアのトリセツ

テストとデバック

論文奨励賞
[研究論文]変更における状態を含むテスト網羅尺度とテストケース抽出法の提案
湯本剛(筑波大学大学院),松尾谷徹(デバッグ工学研究所),津田和彦(筑波大学)
要旨:
ソフトウェアの一部に変更を加えた場合,その変更の波及を探る変更波及解析(Change Impact Analysis)は実務上の大きな課題である.産業界において,変更にかかる活動は新規開発よりも大きな割合を占めている.ソフトウェアの多様化,複雑化,再利用範囲の増大などから変更波及の範囲が拡大し,かつ安易な変更による弊害など課題が山積している.本論文では,変更波及のうち,状態遷移を持つソフトウェアにおいて,変更波及がデータベースや外部変数などの保持データを介して生ずる場合のテストについて取り上げ,テスト網羅基準とテスト設計手法を提案する.具体的な例を使って手法の適用可能性を確認し,テストケースの数を他の手法と比較し合理的であることを示す.
研究論文

[事例報告]探索的テストにおける不具合発見率向上に向けた取り組み
中野直樹 (LIFULL)
要旨:
探索的テスト(Exploratory Software Testing)は近年様々なソフトウェア開発の現場で用いられている.弊社の開発プロジェクトにて探索的テストの導入を行い,そこで発見された課題を元に不具合発見率向上に向けた取り組みを行った.
要旨
事例報告

[研究論文]VDM++仕様を対象にしたテストケース自動生成ツールBWDMにおける if 式の構造認識に基づいたテストケース生成手法の提案
立山博基(宮崎大学大学院工学研究科),片山徹郎(宮崎大学工学教育研究部)
要旨:
ソフトウェア開発において、形式手法を用いることで、仕様に曖昧さが含まれることを防ぐことができる。我々は、形式手法VDM を用いたソフトウェア開発におけるテスト工程の効率化を目的として、テストケース自動生成ツールBWDM を試作した。既存のBWDM の問題点として、VDM 仕様中のif 式からテストケース生成を行う際に、ネストやelse if などのif 式同士の構造を認識していない点が挙げられる。そのため、そのような構造の中にある戻り値に対するテストケース生成を行えない。本稿では、このBWDM における、テストケース生成処理の問題点を解決するために、if 式の構造認識に基づいたテストケース生成手法の提案を行う。提案手法をVDM 仕様に適用した結果、従来のBWDM ではテストケース生成を行えなかった仕様中の戻り値に対する、テストケースの生成が可能になることを確認した。そのため、BWDM に提案手法を実装することで、テストケース生成処理の問題点を解決し、BWDM の有用性が向上すると言える。
研究論文

[経験露文]段階的なシステムテストによるIoTシステム開発効率化
西村治(パナソニック)
要旨:
様々な商品が連携し複雑化している当社のIoTシステム開発において,従来のシステムテストでは,テスト終盤で不具合が収束せず,不具合対応に計画以上の時間を要し,開発納期に影響するという課題が発生している.これを解決するために,段階的なシステムテストを導入し,テスト終盤の不具合を大幅に削減できた.この取り組みを本稿で紹介する.
経験論文

[研究論文]例外処理を含むJava プログラムを対象としたデータ遷移可視化ツールTFVISの適用範囲の拡大
佐藤拓弥(宮崎大学大学院工学研究科),片山徹郎(宮崎大学工学教育研究部),水久保直哉,田中伸英(スカイコム)
要旨:
ソフトウェア開発工程において、デバッグは手間と時間のかかる工程である。このデバッグにかかる手間と時間の削減を目的として、我々の研究室ではデータ遷移可視化ツールTFVIS を開発した。TFVIS は、データ遷移可視化と実行フロー可視化によって、プログラム実行時の挙動把握を支援する。TFVIS の可視化により、欠陥を含んだプログラムの実行時の挙動把握を容易にし、プログラムが含む欠陥の特定を支援する。しかし、TFVISは一部の制御構造や式にしか対応しておらず、有用性が高いとは言えない。そこで、例外処理を含むJava プログラムを対象とした適用範囲の拡大を行った。これにより、TFVIS のJava プログラム可視化ツールとしての有用性が向上したと言える。
研究論文

コード解析

[研究論文]Data Race Detection Based on Dependence Analysis
Guanqun Wang,Masahiro Matsubara (Hitachi Automotive Systems, Ltd.)
要旨:
Concurrency issues have been a serious problem in the whole software industry. They very often lead to hard-to-reproduce bugs and thus are very difficult to locate and solve. In this paper, we introduce a novel method for detection of one major category of concurrency problems, data race. This method extracts a Variable Dependence Tree from source code and finds data race by analysis on the Variable Dependence Tree. A prototype is built in Java according to the proposed method and tested on production-level source code (C language) with more than 400k LLOC. As a result, the prototype tool successfully detected all known data races including one relying on redundant structure of software and proved the effectiveness and feasibility of our proposed method.
研究論文

[研究論文]N-gram IDF を利用したソースコード内の特徴的部分抽出手法
小林勇揮(京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科情報工学専攻),水野修(京都工芸繊維大学情報工学・人間科学系)
要旨:
従来の大域的な語の重み付け手法であるIDF(Inverse Document Frequency)には,単語N-gram に対して適用できない欠点があった.しかし,近年の研究により,IDFを単語N-gram に対して適用する手法が提案された.本研究では,このN-gram IDF をソースコードに対して適用し,ソースコード中の特徴的部分の抽出に応用できると考えた.具体的には,局所的重み付けであるTF(Term Frequency)とN-gram IDF を利用した語の重み付け手法であるTF-IDFN Ngram を用いて,ソースコードごとの特徴語の抽出を行った.そして,その特徴語の行ごとの出現頻度を求めて,ソースコード中の特徴的部分の抽出を行った.まず,サンプルプログラムを用いて特徴語抽出の評価実験を行い,ソースコードにおいても特徴語をある程度抽出できることを示した.次に,Apache Ant の公開されているソースコードを用いて特徴的部分抽出を行い,またソースコードの変更による特徴的部分の変化についても調べた.その結果,ソースコードから特徴的部分の抽出をすることができた.また,その抽出した特徴的部分は,ソースコードの変更によってもソースコード全体の相対位置の変化が少ないことを示した.
研究論文

[研究論文]ソースコードの品質向上を目的とした特定のコメントを検出するツールの試作
田上諭(宮崎大学工学研究科),甲斐秀一(スカイコム),片山徹郎(宮崎大学工学教育研究部)
要旨:
TODO コメントと言ったマーキングの役割をするコメントや不適切なコメントを検出できるようになると,ソースコードの品質向上に役に立つ.本稿では,ソースコードの品質向上を目的として,特定のコメントを検出するツールを試作する.試作するツールでは,正規表現を利用し,検出文字列のパターンを XML(Extended Markup Language) ファイルに設定できる.これにより,検出したい特定のコメントを検出できる.新たに検出したい特定のコメントが出てきた場合も,検出文字列のパターンとして追加することにより,柔軟に対応できる.株式会社スカイコムの協力でLOC(Line of Code)が5000 行以上のプロジェクトを対象に試作したツールを適用し, 適合率及び再現率を調査した.調査した結果,検出文字列のパターン調整することにより再現率は100 %を,適合率は80 %を,それぞれ達成した.また,一度設定したXML ファイルは,他のプロジェクトでもそのまま適用でき,再利用可能なことが確認できた.試作したツールを用いることで,マーキングの役割をするコメントやソースコードに存在する不適切なコメントを検出できる.マーキングの役割をしているコメントや不適切なコメントを減らしていくことで,ソースコードに存在する課題の削減や理解容易性の向上が図れる.
研究論文

[事例報告]ソースコードの品質向上を目的とした特定のコメントを検出するツールの試作
甲斐秀一(スカイコム),田上諭(宮崎大学工学研究科),片山徹郎(宮崎大学工学教育研究部)
要旨:
本研究では、ソースコード(最終的にはソフトウェア)の品質向上を目的とし、ソースコード内に存在する不適切なコメントを検出可能なツール(以下、本ツール)の開発および評価を、宮崎大学と共同で行った。不適切なコメントとして検出した箇所のソースコードを見直すことによって、品質およびメンテナンス時の作業効率の向上を図ると共に、不適切なコメントが及ぼす影響やコメントの重要性を理解するための教育ツールとしても利用可能なものを目指して取り組みを行った。
要旨
事例報告

保守,OSS

[事例報告]「あるある診断ツール」による課題の可視化と収集データの分析事例
室谷隆(TIS)
要旨:
昨年のソフトウェアシンポジウムにて,『「保守あるある診断ツール」による保守課題の可視化事例』というタイトルで,ツールの検討過程,コンセプト,使い方の知見などを紹介させて頂いた.この後運用主体の業務を診断する診断項目を作成,使い勝手の改善を行ない,2016年末までに220PJ(565名)に適用し,約13万件のデータを得た.この診断結果データの分析を行い,興味深い知見が得られたため事例の追加報告として発表する.
要旨
事例報告

[経験論文]パッケージ製品におけるソフトウェア保守情報の活用事例
加藤英之(東芝ソリューション),増井和也(ソフトウェア・メインテナンス研究会)
要旨:
 開発が済んだソフトウェアは,システム上で稼働を開始すると,ある種のソフトウェア保守対応が必要となる。稼働中ソフトウェアへのこの保守対応(含む利用者サポート)は,利用者にとって無償か有償かに関係なく,稼働が終了するまで何らかの形で継続する。その継続期間が時として30 年以上となる事例もある。保守対応の間で得られる情報は,処理機能の操作等のQ&A,クレーム,要望,障害情報(事象,原因,回避策,再発防止策等),修正版リリース情報,保守作業のための運用停止情報,修正に伴う仕様・設計・プログラム・テスト仕様・作業エビデンス・承認過程など,1 件の保守対応にもさまざまで,いわゆる5W1H 情報を含み,多岐にわたる。ソフトウェアの開発完了時の完成文書が完成時点の状況を示す比較的均一で静的な情報であるのに比べ,保守対応情報は時間軸を持った動的でかつ多様な情報の集まりといえる。
 これらの情報には,システム,ソフトウェア,人間系の問題や障害といった瑕疵情報を含み,その量や種類の多さは一般的にシステムの信頼性のあるべき姿から誇らしいことではないとの認識がある。そのため,保守対応情報は社外への開示はもちろんのこと,社内の他部門への開示も統計処理した一部データを除き,生の個別保守情報(特に恥かしい事例と印象付けられるようなもの)が積極的に開示されることは少ない。
 本論文は,パッケージ製品の顧客別アドオンソフトウェア保守専任チームが管理する保守情報を,外部への開示は制限しているものの,厳重なセキュリティ権限管理や顧客との機密保持契約遵守の下,可能な範囲で部門間共有を積極的に行い,さまざまな効果が出ている事例を総括的に報告するものである。
経験論文

[事例報告]保守と保守開発におけるSoftware Evolutionの事例報告
三輪東(SCSK)
要旨:
15年間進化を続けている同一Softwareに関する事例報告である.Software も機能追加を繰り返し,大幅に進化した.加えて,そのSoftwareに関わる人々の活動や,それらを支える多様な構成要素も進化を遂げた.本報告では,Software そのものの変化の歴史では無く,それをとりまく周辺活動の変化に焦点をあて,進化の推移を報告したものである.
要旨
事例報告

論文奨励賞
[研究論文]OSS開発者の離脱要因理解のためのPoliteness の質的調査
宮崎智己,大平雅雄(和歌山大学システム工学部)
要旨:
 近年,オープンソースソフトウェア(OSS) は企業のソフトウェア開発でも積極的に再利用されている.OSS開発者の多くはボランティアとしてOSS プロジェクトに参加するが短期間でプロジェクトを離脱することが知られている.そのため,多くのOSS プロジェクトでは,プロジェクトに長期間貢献する開発者が慢性的に不足しており,プロジェクトの安定運営およびプロダクトの品質維持に関する重大な懸念を抱えている.OSS プロジェクトに参加する開発者のPoliteness(コミュニケーション上の配慮)に着目して我々が実施した先行研究では,プロジェクト離脱直前にPoliteness が急激に変動するコア開発者の存在を明らかにした.
 Politeness の急激な変動は開発者の離脱の予兆を検知する手法の構築につながる可能性がある.離脱の予兆検知手法を構築できれば,長期間プロジェクトに貢献する重要な開発者の離脱をプロジェクト管理者等が早期に察知し,離脱を防ぐための方策の立案に役立つことが期待される.しかしながらでは,開発者のPolitenessが急激に変動した理由や,開発者の離脱とPoliteness の急激な変動とにどのような関係があるのかについては詳細な分析をおこなっていない.
 本稿では,Politeness が急激に変動する理由と離脱原因との関係を明らかにするために,コア開発者が離脱する直前3ヶ月間の開発者メーリングリストへの投稿の内容を目視する定性的な調査を実施する.本調査の結果,離脱直前にPoliteness が大きく低下するコア開発者はコミュニティ内で他の開発者と意見が対立していたことを確認した.一方,離脱直前にPoliteness が大きく上昇したコア開発者の離脱理由については明示的な手がかりを見つけることができなかった.
研究論文

[経験論文]OSS事前評価による開発リスク特定の取組み
岩崎孝司,高山修一,岩永裕史(富士通九州ネットワークテクノロジーズ),鵜林尚靖,亀井靖高(九州大学)
要旨:
昨今のソフトウェア開発において、OSSを利用した開発が徐々に増えてきている。また、利用したOSSに起因する問題が開発後半で発生し、開発コスト増や納期遅延といった問題が発生することも珍しくない。OSSを利用する前にOSSの利用リスクを判断する事前評価の技術や開発プロセスは既存の研究でも実施されてきたが、開発現場で一般的に活用されるには至っていない。本研究では開発現場への導入を主眼に置き、開発者がOSSを利用する際に意識している品質要求からOSSの利用リスクを判断できるOSS事前評価手法を考案した。本手法は、品質要求とOSSを事前に評価した事前評価指標を関連付け、開発者にリスク評価結果を示す事前評価レポートを作成する手法とした。考案した手法を、当社内で実際に開発を行ったプロジェクトに対して適用し、リスクの事前評価結果と実際の開発で発生したOSS利用時の問題を比較した。結果、今回試行の対象としたプロジェクトで実際に発生した問題に対しては、本手法を用いてリスクを検知できる事を確認した。
経験論文

マネジメントとチーム

[研究論文]開発者の所属企業規模を考慮したソフトウェア工学の有用性評価
村上優佳紗,角田雅照(近畿大学大学院総合理工学研究科)
要旨:
ソフトウェア工学の研究目標を設定する際,開発者の総数が多いボリュームゾーンのニーズを考慮する必要がある.日本では300 人未満の中小企業及びそこに所属する開発者が多数を占めており,ここがボリュームゾーンといえる.ただし,ソフトウェア工学の最先端研究が,これらの企業に所属する開発者のニーズに応えられているかどうかは明らかではない.そこで本研究では,ソフトウェア工学の最先端研究が,中小企業に所属する企業のニーズに対応できているかどうかを分析した.具体的には,ソフトウェア開発企業に所属する開発者に対し,最先端研究が自分の業務に有用であるかどうかを評価してもらった.その後,開発者が所属する企業の規模によりデータを層別して分析を行った.その結果,所属する企業の規模によって,業務に関連する研究カテゴリに差異が見られたが,研究の有用性及び興味の評価については,規模による差異は見られなかった.
研究論文

[経験論文]自分事化影響要因に着目した中期経営計画立案・展開への 共創アプローチ[現状分析~計画立案編]
安達賢二(HBA)
要旨:
弊社のこれまでの経営計画立案・展開は、経営企画部門と役員クラスの事前調整に基づくトップダウンアプローチであった.その結果、実務層は実施すべき施策が指定された全社計画に合わせて部門・部署計画を立案、展開していた.結果的にやらせる/やらされる運営が中心となり、躍動感やワクワク感のない、当事者意識・参画意識が薄い(あるいは、ない)、“こなす”仕事が多いと感じていた.また、全社レベルの計画・展開と実務レベルの実質的な実践内容が乖離している場合もあった. 2016年に新社長が就任し、創立50周年(2014年)に掲げた新テーマ“ITで幸せに挑む”の実践・実現に向け、社員一人ひとりが当事者となり事業を進めることで“仕事を通じた幸せ”を獲得してもらうため、人がものごとを自分事として継続的に実施することに影響を与える要因(自分事化影響要因、とする)に着目した社員参画型共創アプローチを採用し、中期経営計画立案を進めることとした.現時点は中期経営計画が発行される直前であるため、まずは現状分析~計画立案に至る過程とその中で得られた効果、および今後の課題を明確にする.
経験論文

[経験露文]製品開発におけるOSS導入のためのOSS事前評価手法確立に向けた調査
日下部茂,片平梓,青木研(長崎県立大学)
要旨:
創造性にもとづいて知的作業成果物を作成するという観点から,ソフトウェアの開発と映像のようなコンテンツの開発には共通点があると考える.例えば,開発支援技術の進歩でルーチン作業の負荷は削減される傾向があると同時に,大規模複雑化が進み上流工程では明確な見通しを得にくいけれども,上流工程での欠陥は後工程で大きな問題となってしまう可能性が高い.本発表では,類似性がある領域のプロジェクトのマネージメントには類似性があるとの仮定の下,大学での教育研究活動においてコンテンツ開発プロジェクトにソフトウェア開発プロジェクト管理の知見を適用する試みと,その予備評価について述べる.
経験論文

[事例報告]勉強会を活用した組織成長モデル~機能期のチームが継続的に成長するために~
伊藤修司,山口真,豊田圭一郎(SCSK)
要旨:
基幹系システムを保守・運用する組織やチームは,そのシステムが稼働し続ける限り,もしくは契約が続く限り,一定の経験を有するメンバーを中核に据えた体制を維持する必要がある.今回の事例報告では,機能期の段階に突入した組織が,メンバーを入れ替えずに更に成長していくための手法として,「参加型勉強会」を適用した事例を紹介する.
要旨
事例報告

要求・安全・品質・メトリクス

[研究論文]コードクローン変更過程における開発者のインタラクションとソフトウェア品質の関係
久木田雄亮(和歌山大学大学院システム工学研究科),大平雅雄(和歌山大学システム工学部)
要旨:
本稿では,コードクローン追跡ツールCCT (Code Clone Tracer) を用いて,コードクローンの変更に関与した開発者らとソフトウェア品質との関係について分析する.CCT は,コードクローンの作成・利用過程における人的影響を調査することを意図して設計されたコードクローン追跡ツールである.分散型バージョン管理システムGit を対象としたコードクローン追跡機能に加え,不具合管理システムと連携することで不具合を混入したコミットとその作成者を特定し分析するための機能を備えている.本稿では,3 つのオープンソース開発プロジェクト(RxJava, c:geo, Jackson databind)を対象として行った社会ネットワーク分析の結果について報告する.
研究論文

最優秀論文賞
[経験論文]Convolutional Neural Networkを用いたフォールト数予測手法
小川直記,坂井伸圭,横内弘(日立製作所)
要旨:
ソフトウェア開発のテスト工程において,いかに品質を確保しつつ,テストの効率を上げるかは重要な課題の一つである.そのために,品質状況を判断し,品質と効率のバランスを最適化する必要がある.そこで,我々は品質状況を判断するための指標の一つとして,「摘出フォールト数の目標値」をテストの十分性を判断するために用いている.この際,高い精度で予測出来なかった場合は,過剰なテストを実施してしまう.しかし,高い精度の予測には開発者やテスト担当者が長年培ってきた経験が必要であるため,有識者に作業が集中してしまい全体のボトルネックとなってしまっていた.本研究では,過去のソフトウェア開発プロジェクトのデータからConvolutional Neural Network(以下CNNと略す)を用いてフォールト数の予測を行い,定量的評価を行う.評価の結果,実際のプロジェクトで使用可能な精度でフォールト数の予測が可能なことがわかった.
経験論文

[事例報告]事例報告:AADLを用いたSTAMP/STPA支援
岡本圭史,力武克彰(仙台高等専門学校),大友楓雅(仙台高等専門学校情報電子システム工学専攻)
要旨:
本稿では,アーキテクチャ記述分析言語AADLによる安全分析手法STAMP/STPA支援事例として,特にハザード誘発要因識別の支援事例を報告する.
要旨
事例報告

[研究論文]ゴール指向分析KAOSにおける依存性を考慮した要求抽出法の考察‐酒屋倉庫問題の場合‐
岡野道太郎(筑波大学大学院ビジネス科学研究科),中谷多哉子(放送大学情報コース)
要旨:
本稿は,要求仕様書に書かれるべき,設計・実装・テストに必要な情報を獲得するためにはどのような手法を用いればよいかの知見を得ることを目標とする.この目標へのアプローチとして,ゴール指向要求分析の一手法である KAOS を用いる.この手法はシステムの目標であるトップゴールから,ゴールの詳細化を繰り返すことにより要求を獲得する.本稿ではゴール P → Q の詳細化手法として,状態遷移→部分を詳細化するマイルストーン分解と,状態Q を分解する要素分解を用いる.その際,状態P については分解していないが,状態P を分解する必要があるかについて考察した.考察を行うために「酒屋倉庫問題」のゴール分解を行った.すると,状態P を分解しないと依存性に関して問題が生じることが判明した.そこで本稿では状態P の部分を分解し,依存性を明記する表記法を提案する.関連研究では本稿の手法と他の要求抽出手法との関連について議論し,今後の研究において本稿で取り上げた達成ゴール以外のゴールについて述べる.
研究論文

[研究論文]要件定義書からのファンクションポイント自動計測の試み
山田涼太,山田悠斗,楠本真二,柗本真佑,肥後芳樹(大阪大学大学院情報科学研究科)
要旨:
 一般にソフトウェア開発プロジェクトの見積りでは,まず開発規模が見積もられ,それを用いて工数や予算の見積りが行われる.開発規模の尺度として,最近ではファンクションポイント(FP) の利用が重要視されている.一方で,FP を導入する上での幾つかの課題があり,それらの対策として計測の自動化が期待されている.
 本稿では,開発の上流工程で作成される要件定義書を対象とした,FP 自動計測の試みについて報告する.提案手法では,要件定義書のうち機能仕様についての記述を提案するテンプレートを用いて書き換え,書き換えられた仕様を解析し,計測に必要な要素を抽出することでFP 計測を行う.4 種類の小規模な要件定義書を対象に提案手法を適用し,手動での計測と比較することで精度を確認した.その結果,3 つの要件定義書では手動計測と同様の値が,残りの1 つの要件定義書では手動計測より若干大きな値が計測された.
研究論文

形式手法、プロセス改善

[研究論文]ソフトウェア開発発注者育成のための形式手法を取り入れたプログラミング教育
伊藤栄一郎(山梨学院大学),小田朋宏(SRA),荒木啓二郎(九州大学)
要旨:
品質の高い仕様記述は開発における手戻りを減らし最終成果物であるソフトウェアシステムの品質を高めるために重要な工程である.仕様記述は開発を計画するドメイン専門家とその実現を担当する開発者の双方が記述やレビューを通して関与すべき工程である.したがって,品質の高い仕様記述を得るためにはドメイン専門家と開発者の双方において仕様記述に関する知識と技能を高める必要がある.我々は,品質の高い仕様記述を得るための手法として形式仕様記述に着目し,将来企業においてソフトウェアシステムの発注者側として開発に携わることが予想される大学生へのプログラミング導入教育において,形式仕様のエッセンスであるプログラムの正当性,手続きの事前条件と事後条件について講義を行い,ビジュアルプログラミング環境上での演習およびペーパーテストを実施した.本論文では,講義の内容と結果,および講義向けに開発したビジュアルプログラミング環境への拡張機能を説明し,議論する.
研究論文

[研究論文]「VDM++仕様記述と分析」の定石と手筋
佐原伸(法政大学情報科学研究科)
要旨:
 形式仕様記述言語VDM++で仕様を記述し,それを分析できる産業界の技術者を育てることは簡単ではない.
 しかし,長年にわたって囲碁や将棋を学習し,多くの技術者や学生に,VDM++による仕様記述方法を教えた経験から,「仕様記述と分析」を定石や手筋を使って教育することが,囲碁や将棋の教育と同様に有効だと考えた.特に,仕様記述に重要な不変条件(invariant) ・事後条件(post-condition)・事前条件(pre-condition)の記述を容易にできるよう,定石と手筋を集めて検索可能にすれば比較的容易に「仕様記述と分析」行うことができる.
 このような「定石集」を試作し,評価した結果,3節で述べるように,かなり役立ちそうである事が分かった.また,これらの定石をコンピュータ化すれば,検索や「仕様の一部」の自動生成に活用できる可能性もある.
研究論文

[経験論文]日立グループにおける働き方改革の「カタ」 ~マルチタスクに注目した設計・開発の改善プログラム~
八木将計(社日立製作所),西原隆,真道久英,村上悟(ゴール・システム・コンサルティング),渡辺薫(日立製作所)
要旨:
本論文では,日立グループにおける働き方改革の「カタ(標準型)」を報告する.具体的には,ソフトウェアを含む設計・開発において,日立グループでの改善活動で得られた知見を整理・標準化したチームマネジメントA3というフォーマットとそれに基づく改善プログラムを提案する.提案手法では,QCDに様々な悪影響を及ぼすマルチタスクの低減を改善目標とし,マルチタスクを見える化するタスクボードと毎朝のスタンドアップミーティングで問題をあぶり出し,KPTによる解決志向アプローチとTOC思考プロセスによる原因追及アプローチの組合せで改善を推進する.このチームマネジメントA3により,助言を得やすくなったなどの定性的効果だけではなく,残業時間30%減や納期遵守率27%増などの効果も得た.また,働き方改革の展開が容易になり,現在,日立グループにて1,000人以上が関わる規模に拡大している.
経験論文

[経験論文]Visual開発ツールNode-REDの導入によるプロセスの変化と考慮点
阪井誠(SRA)
要旨:
 本論文ではNode-REDを導入したソフトウェア開発プロジェクトの経験者にアンケートを行い,ソフトウェア開発にどのような変化があったのかを調査した.経験者8人に対するアンケートの結果,品質と開発期間の評価が高かったものの,ツールの導入だけでは必ずしも効果が得られず,(1)ツールの知識やノウハウを共有すること,(2)特性を活かした設計で品質を作りこむこと,(3)実装を繰り返して常に確認すること,(4)上流から利用すること,が効果的なソフトウェア開発につながることが分かった.
 プロセス改善を目的として多くの企業でツールが導入されているが,必ずしも成功していない,本研究の知見を参考に,より効果的なプロセス改善が行われることが期待される.
経験論文

Future Presentation

[Future Presentation]テストの遊び場を作ったら、一緒に遊びますか?
浅井真樹子(ワークスアプリケーションズ)
要旨:
 テストの遊び場は,ソフトウェアテストに関する色々な技術のスキルアップを目的に,泥まみれになって遊べる体験型の場所があったら楽しそうだというアイデアである.
 ソフトウェアテストの発展への貢献と世界中のエンジニアと交流できる可能性を秘めている,私にとっての野望でもある.
要旨
Future Presentation

最優秀発表賞
[Future Presentation]エンジニア人材を死滅させるマイクロマネジメントの打破~エンジニアを活かし育てるトリセツ活動の提案~
松尾谷徹(デバッグ工学研究所)
要旨:
 企業のIT 関連職場において,エンジニアの悲痛な叫びを聞くことが増えている.叫びの多くは,日々の仕事として,その活動の意味が見いだせない無駄な作業に忙殺されていることから生じている.現代の若者に我慢が不足していると切り捨てる管理職も存在するが,決してそうではない.
 エンジニアは,製品やシステムやサービスにおいて,維持するだけでなく付加価値を生み出すことが求められている.その原動力はクリエイティブな人的資源による創造的な工夫や変革であり,規範的なプロセスの遵守だけでないことは明白である.
 しかし,多くの職場レベルのマネジメントは規範的な側面が詳細に強化され,厖大な手続き的な作業を押し付けるマイクロマネジメントが蔓延している.結果的に,付加価値を生まない活動にクリエイティブ人材を投入することになり,付加価値が生まれないばかりか,人材を疲弊させ,組織自身をも衰退させている.この現状を明らかにし,この流れを断ち切るための提案を行う.
要旨

WG2「テストプロセス改善モデルを理解する」で発表

[事例報告]TPI NEXTによる現場主導のテストプロセス改善を支援するための手法の提案
高野愛美,河野哲也(日立製作所),山﨑崇(ベリサーブ),佐藤徳尚(日本ナレッジ)
要旨:
本報告では,TPI NEXT による現場主導のテストプロセス改善を進める際に現場のチームが陥りやすい問題に対して支援するための手法を提案する.TPI NEXTによる現場主導のテストプロセス改善で陥りやすい2つの問題,1)チーム内で現状のテストプロセスを共通理解していないため,改善策の検討が難しい,2)改善項目が多く,優先順位の判断が難しい,に対して支援するための2つの手法,1)現状のテストプロセスを可視化するためのPFDの活用,2)一定の指針による改善項目の絞り込みを提案する.また,現状のテストプロセスを可視化する対象を判定するために,TPI NEXTのチェックポイントがプロセス表現できるかどうかを整理した結果を報告する.
要旨
事例報告

WG7「エンジニアリングのトリセツ」で発表

[事例報告]ソフトウェア保守 隠蔽の構造 ~なぜ,保守作業は隠されてきたのか?~
増井和也(ソフトウェア・メインテナス研究会)
要旨:
本報告は,ソフトウェア保守作業が現場の実作業量に比べ,大幅に少なくなるよう隠蔽される原因,構造,弊害,対策提言について一般事例を基に総括的に報告するものである。なお,本報告で使う「ソフトウェア保守」(または単に「保守」は,JIS X0160JIS が示す定義とする。
要旨
事例報告

[Future Presentation]道徳性向上後の行動におけるアラートシステム
阿部敬一郎(東筑紫短期大学),中谷多哉子(放送大学大学院)
要旨:
道徳教育支援システムの一部である,高次な道徳的行為の発現を促すためのタスク管理システムを提案する. 既存のクラウドサービスを使用し,教師と学生,学生と学生とで学内外での実践とその達成率を可視化する.
要旨