ソフトウェア・シンポジウム 2017 表彰論文

SSでは,毎年,最優秀論文賞,論文奨励賞,最優秀発表賞の3つを表彰しています.今回の受賞論文と著者は次のとおりです

最優秀論文賞

[経験論文]Convolutional Neural Networkを用いたフォールト数予測手法
小川直記,坂井伸圭,横内弘(日立製作所)
要旨:
ソフトウェア開発のテスト工程において,いかに品質を確保しつつ,テストの効率を上げるかは重要な課題の一つである.そのために,品質状況を判断し,品質と効率のバランスを最適化する必要がある.そこで,我々は品質状況を判断するための指標の一つとして,「摘出フォールト数の目標値」をテストの十分性を判断するために用いている.この際,高い精度で予測出来なかった場合は,過剰なテストを実施してしまう.しかし,高い精度の予測には開発者やテスト担当者が長年培ってきた経験が必要であるため,有識者に作業が集中してしまい全体のボトルネックとなってしまっていた.本研究では,過去のソフトウェア開発プロジェクトのデータからConvolutional Neural Network(以下CNNと略す)を用いてフォールト数の予測を行い,定量的評価を行う.評価の結果,実際のプロジェクトで使用可能な精度でフォールト数の予測が可能なことがわかった.
経験論文

論文奨励賞

[研究論文]変更における状態を含むテスト網羅尺度とテストケース抽出法の提案
湯本剛(筑波大学大学院),松尾谷徹(デバッグ工学研究所),津田和彦(筑波大学)
要旨:
ソフトウェアの一部に変更を加えた場合,その変更の波及を探る変更波及解析(Change Impact Analysis)は実務上の大きな課題である.産業界において,変更にかかる活動は新規開発よりも大きな割合を占めている.ソフトウェアの多様化,複雑化,再利用範囲の増大などから変更波及の範囲が拡大し,かつ安易な変更による弊害など課題が山積している.本論文では,変更波及のうち,状態遷移を持つソフトウェアにおいて,変更波及がデータベースや外部変数などの保持データを介して生ずる場合のテストについて取り上げ,テスト網羅基準とテスト設計手法を提案する.具体的な例を使って手法の適用可能性を確認し,テストケースの数を他の手法と比較し合理的であることを示す.
研究論文

[研究論文]OSS開発者の離脱要因理解のためのPoliteness の質的調査
宮崎智己,大平雅雄(和歌山大学システム工学部)
要旨:
 近年,オープンソースソフトウェア(OSS) は企業のソフトウェア開発でも積極的に再利用されている.OSS開発者の多くはボランティアとしてOSS プロジェクトに参加するが短期間でプロジェクトを離脱することが知られている.そのため,多くのOSS プロジェクトでは,プロジェクトに長期間貢献する開発者が慢性的に不足しており,プロジェクトの安定運営およびプロダクトの品質維持に関する重大な懸念を抱えている.OSS プロジェクトに参加する開発者のPoliteness(コミュニケーション上の配慮)に着目して我々が実施した先行研究では,プロジェクト離脱直前にPoliteness が急激に変動するコア開発者の存在を明らかにした.
 Politeness の急激な変動は開発者の離脱の予兆を検知する手法の構築につながる可能性がある.離脱の予兆検知手法を構築できれば,長期間プロジェクトに貢献する重要な開発者の離脱をプロジェクト管理者等が早期に察知し,離脱を防ぐための方策の立案に役立つことが期待される.しかしながらでは,開発者のPolitenessが急激に変動した理由や,開発者の離脱とPoliteness の急激な変動とにどのような関係があるのかについては詳細な分析をおこなっていない.
 本稿では,Politeness が急激に変動する理由と離脱原因との関係を明らかにするために,コア開発者が離脱する直前3ヶ月間の開発者メーリングリストへの投稿の内容を目視する定性的な調査を実施する.本調査の結果,離脱直前にPoliteness が大きく低下するコア開発者はコミュニティ内で他の開発者と意見が対立していたことを確認した.一方,離脱直前にPoliteness が大きく上昇したコア開発者の離脱理由については明示的な手がかりを見つけることができなかった.
研究論文

最優秀発表賞

[Future Presentation]エンジニア人材を死滅させるマイクロマネジメントの打破~エンジニアを活かし育てるトリセツ活動の提案~
松尾谷徹(デバッグ工学研究所)
要旨:
 企業のIT 関連職場において,エンジニアの悲痛な叫びを聞くことが増えている.叫びの多くは,日々の仕事として,その活動の意味が見いだせない無駄な作業に忙殺されていることから生じている.現代の若者に我慢が不足していると切り捨てる管理職も存在するが,決してそうではない.
 エンジニアは,製品やシステムやサービスにおいて,維持するだけでなく付加価値を生み出すことが求められている.その原動力はクリエイティブな人的資源による創造的な工夫や変革であり,規範的なプロセスの遵守だけでないことは明白である.
 しかし,多くの職場レベルのマネジメントは規範的な側面が詳細に強化され,厖大な手続き的な作業を押し付けるマイクロマネジメントが蔓延している.結果的に,付加価値を生まない活動にクリエイティブ人材を投入することになり,付加価値が生まれないばかりか,人材を疲弊させ,組織自身をも衰退させている.この現状を明らかにし,この流れを断ち切るための提案を行う.
要旨

著者のみなさま,おめでとうございます!