SEA新春教育フォーラム
SEA New Year Forum

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第17回 SEA新春教育フォーラム2009 報告
「グローバルなソフトウェア技術者育成の課題」
ソフトウェアに限らず、学校教育、企業教育の関連と問題
  主催:ソフトウェア技術者協会(SEA)/教育分科会(sigedu)

1.開催概要

 ソフトウエア技術者協会SEA恒例の新春教育フォーラムを下記の要領で開催しました。
 ソフトウエア技術者協会は、ソフトウエアの実務者あるいは研究者が、組織の壁を越えて、各自の実践 技術や研究成果を自由に交流しあうための場として、1985年12月に設立されました。SEAの教育分科会(SIGEDU)は、ソフトウエア技術者教育を主なテーマとして、教育方法の実践技術と研究成果の移転に、長年取り組み続けています。
 わが国における高度技術者、特にソフトウェア技術者の育成は、経済発展を続ける中国や、近隣諸国でも共通する課題です。モチベーションから、育成方法論、技術力評価に至るまで、解決すべき課題が山積しています。
 こうした背景を踏まえ、本フォーラムでは、グローバルなソフトウェア技術者育成を基調テーマとして、基調講演者及びパネリストに多彩な専門家を招聘し、フロアを交えた新春にふさわしい新鮮な議論を展開しました。

2.プログラム

 ● 開催日時
  2009年1月23日(金) 13:30〜17:00

 ● 開催場所
  新宿歴史博物館 〒160-0008 東京都新宿区三栄町22番地
  TEL 03-3359-2131
  http://www.regasu-shinjuku.or.jp/shinjuku-rekihaku/public_html/access.html

 ● 実施内容とスケジュール(敬省略)

  13:00 開場・受付開始

  13:30 ■ 開会挨拶・講師紹介
     実行委員長 臼杵 誠(富士通株式会社)

  13:40 ■ 基調講演
     ●開米(かいまい)瑞浩(アイデアクラフト代表)
      「教える技術」は人材育成の切り札!
          「ITの専門知識を素人に教える技」
            〜 人は「教える」ことを通じて自ら学ぶもの 〜

  14:30 ■ パネリストポジションスピーチ(お一人20分) 司会者 臼杵 誠
     ●牧野 憲一(オムロンソフトウェア株式会社)
      「中国オフショア企業における技術人材の育成(上海WSの報告もかねて)」

     ●鈴木 克明(熊本大学大学院教授システム学専攻長)
      「ストーリー型カリキュラム(Story Centered Curriculum)の導入」

     ●鈴木 智之(wealth share(株))
       「科学的な人事・教育会社の立場」

  15:40 ■ パネル討論「 教え方の極意について 」
           〜 考えさせる教育とは何か 〜
 
       座長: 君島 浩

パネリスト:開米瑞浩、鈴木克明、鈴木智之、牧野憲一  (五十音順)

  16:50 ■ 終了挨拶 ソフトウエア技術者協会幹事 篠崎 直二郎(NECソフト)

    終了後、有志による懇親会を開催しました。


 ● 実行委員長 臼杵 誠(富士通)


3.パネルディスカッションのやり取り(記録 by 座長 君島 浩)

 討論された主な内容は次のとおりである。座長作業の片手間のメモと記憶を頼りに再現したものであり、漏れが多く、不正確な点がありえることは承知で参考にして欲しい。

君島:それでは質問をどうぞ。

<鈴木社長(wealth share(株))への質問>
篠崎:
技術教育について何か指摘したいことはありませんか?あるいは技術者のヒューマンスキル教育についてでもいいですが。

鈴木智之:
スキルがどれだけ業績に繋がっているのか、明確な相関を導きだすことがまず1つです。
教育といっても投資であり、プロジェクトなわけですから効果がわからないと、特に昨今の経営環境では許容されるものではありません。
グローバルでは富士通グループが200億円以上の教育研修費用を計上していますし、これは設備投資などと並ぶ一大プロジェクトなのですから、業績への感度が低いスキル教育への投資は経営責任として排除すべきです。

もう1つは大手企業に多いのですが、教育をある意味し過ぎている。これは同じような教育コンテンツが手を変え品を変え、顔を出している例です。
私のクライアントでもその重複検証の結果、年間1億円の教育費用の合理化・適正化に繋がりました。
他にもIBMやマクドナルド、マスミューチャル生命などのグローバルプレイヤーは教育全体の最適化を図っています。
技術者は特に教育が多い職種ですが、一方で教育意識が盛ん過ぎて無駄にやり過ぎてしまう傾向が強い職種でもあります。
教育体系全体での効率化余地はどの企業でも少なからずあります。昨今の経営環境で人員削減などの前に出来る、無駄な費用削減の典型的な例でしょう。

内田:
階層別教育はどうやられていますか?階層別教育の8割は役に立たないという声も聴きますが。

鈴木智之:
階層別教育も同様に、何を教育すべきかが不明確なわけです。
これは教育学の視点ではありません。つまり、あるべき人材像を定性的・主観的に定めてそれを学習指導要領として定義し、その為の教育を考えているから役に立たない研修が多いのです。
会社がやるべきなのは、業績に感度の高い研修をやるということ、そのための定量的・客観的な分析をすることです。 多くの会社ではそれをやっていません。また人事部門にそれをやる能力・ノウハウもありません。それが階層別教育の無駄を生んでいる要因と考えます。

米島:
業績に直結する教育を」と言われるが、ROIの相関を見せるのが大変です。業績に直結させる教育のコツはありませんか?

鈴木智之:
業績との相関評価は、まずは営業職に絞るとわかりやすいです。営業職は販売成績が明確なので、目的変数が明確です。
また説明変数については各種スキルテストや意識調査結果など既に定量化されているものを持ってきます。
それから統計的にはまずは単純線形回帰をすることから、ROIを見せる作業が出発できます。
さらには能力・意識は単品ではなく、各人の中で色々と組み合わさって、その組み合わせが結果として業務行動として発現されるわけですから統計的にも多重線形回帰など、多変量解析の必要性も応用版としては出てきます。
問題は、これらの統計学と、企業内人事活動(特にHRM理論)との乖離がこれまで大きかったことです。今後は諸学問連携による問題解決が求められると思います。


<鈴木先生(熊本大学院)への質問>
小笠原:
新入社員のプロジェクト教育、プロジェクトベースドラーニングはどう思われますか?

鈴木克明:
正解がある職種のならよいが、ソフトウエア開発には正解がないので、効果的な教育と言えるかどうか不明だと思います。

君島:
SIGEDU筑波でも言いましたが、ソフトウエア開発プロジェクトは1ケースをやるだけなので、実務力の保証まではできません。
学習目標は工程を通した円滑さを磨く程度であって、実務力が揃うというのは誇大広告です。


米島:
鈴木先生のところの教育で、課題提出をリニア(平滑)にしたとのことですが、提出の頻度は増えたのですか?
それと、教育の効果・効率の向上のデータはありますか?

鈴木克明:
頻度は変わりません。提出するタイミングが変わりました。効果・効率向上のデータは年度末のあとになると思います。


■不特定パネラ&会場への質問
松原:基調テーマがグローバルとなっているけど、そういう話しはあまりなかったですね。
マルチナショナルとかマルチカルチュラルを目指しても、学校と企業が結びつかなかったのが日本だと思います。どうしてでしょうね。

不明:(高度成長時代は)それでも世界の中で生きてこられたからでしょうね。(←これは鈴木先生だったかしら(米島記)) <鈴木社長(wealth share(株))への質問>
高橋:採用時の成績と実務での成績との相関がない件について、採用時の評価方法がまずいのか、実務での評価がまずいのか、どちらですか?

鈴木智之:そこまで分析していません。人事部と研修部・現場と評価の担当が分かれていて、連携がないのが問題です。

君島:ありがとうございました。これでパネルを終わります。

4.パネリストのコメント

■ 開米(かいまい)瑞浩(アイデアクラフト代表)
普通の会社の普通の社員が社内外で自発的な「勉強会」を開く姿が、私の描く理想型なのですが、SIGEDUにはそんな空気を感じます。コレコレ、こういう場が必要だよね! という印象でした。

■ 牧野 憲一(オムロンソフトウェア(株)  
上海に駐在していた1年半をわずか20分で振り返るには、かなり無理がありました。中国はその間に大きな変化を迎えており、本来ですとそのひとつひとつについてじっくりとコメントしたかったところです。

そんな激変の中心である上海で、現地の中国人と接しながら、ものの見方、考え方、習慣を肌で感じらる機会を与えていただけたことに感謝しております。昼間は日本語のみで過ごしており、中国語の学習が進まなかったのが反省点ですが、まっ、日本に帰国してもできることでもあり、中国の歴史や文化についても今まで以上に親しみを持って学習できます。引続き、興味を持って臨むようにします。

さて、題目であった「中国オフショア企業における技術人材の育成」ですが、幸いなことに駐在先の企業以外にも幾つもの企業を訪問する機会や技術者と交流する機会に恵まれ、違いを感じる事ができました。私と交流があった技術者は概して日本語レベルが高かったです。日本語に対しては、”話す”が一番難しいそうです。能動的であり、勇気が必要だからです。私との会話はその貴重な機会の一つであり、よく練習相手にされました。存在を認めていただけているわけですから嬉しいことです。そして。中国の技術者は貪欲です。良く言えば夢があって、そのために邁進しているという感じです。その辺は日本の技術者も学ぶべきところだと感じました。

さて、新春フォーラムで報告させていただき、駐在生活にひと区切りついた気がします。けじめとなるべくフォーラムに登壇させていただけたことに感謝しております。有難うございました。また機会があれば個別に上海談義にふけりましょう。

■ 鈴木 克明(熊本大学大学院教授システム学専攻長)
情意領域の学習目標をどう扱うか、という点の討議が興味深かったです。何でも心の問題のままにとどめておくと分析的な手法が使いにくいからスキルの問題にしてしまうというID的な無理やり明確化手法について説明したつもりですがどの程度了解してもらえたか心配が残っています。



■ 鈴木 智之(wealth share(株) 初めての参加でしたが、活発な質疑応答に感動しました。参加者の皆様の高い問題意識の現れだと思います。
ソフトウェア技術者は、人材育成に相対的に非常に多額の投資を行う職種の1つですが、その投資効果測定は今後も(このような経営環境だからこそ)課題になるものと思います。今後も人事科学という分野からその投資効果測定について理論・事例を出し続けたいという想いを新たにしました。


5.視聴者としての参加者の感想
■米島(NECネッツエスアイ)
恒例の新春教育フォーラムも今年で17回を迎えました。私自身が参加し始めてからも既に9年も経ちました。参加し始めた当時はID(インストラクショナルデザイン)も目新しい言葉でしたが、昨今は教育界でもIDの名前を知らない人は居ないぐらいになったようです。
しかしながら、IDの持つ本質的な概念や具体的手法、その効能、などについては、まだまだsigeduでのホットなディスカッションが世の中を先んじていると思いを新たにした今回のフォーラムでした。また来年も集いましょう。

6.実行委員長として
臼杵 誠(富士通)
 実行委員長といっても名ばかりで、世話人の米島さんやパネリスト の皆様の厚いご支援なくして、無事に終えることはできなかったと思います。当初60名位の参加者を期待しておりましたが、このご時世と他のセミナーとの重複もあり、予想の半分の30名にも届かず残念に思っております。また、テーマでは「グローバルなソフトウェア技術者育成の課題」と謳いながら上海WSの報告しかなく大変申し訳なく思っております。
 しかしながら、熱い議論ができたことはひとえに参加して頂いた皆様、事務局の方、世話人の方、パネリストの方のお陰だと感謝しております。本当にありがとうございました。
 
レポート END