SEA教育ワークショップ
SEA AutumnWorkshop

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第17回SEA教育ワークショップ 2003 報告

日 程:2003年10月23日(木)〜10月25日(土)  2泊3日

スタッフ
実行委員長    :  森泉 清   (リコーテクノシステムズ(株))
プログラム委員長:   豊永  正人 (日立ソフトウェアエンジニアリング (株))

ソフトウェア技術者協会 第17回教育ワークショップ記録

10月23日から25日ソフトウェア技術者協会第17回教育ワークショップ を開催しました.

第一部では金沢工業大学を訪問して情報サービス部門のeラーニング開発チーム代表と意見交換しました.
第二部として,実際の実務課題を持ちより2日間にわたり合計7つのセッションで発表と質疑応答しました.

<プログラム概要>

第一部:
金沢工業大学のeラーニングの取組み
山本敏幸 加原智彦
(金沢工業大学情報処理サービスセンターシステム部)

第二部:
ワークショップ
1.情報処理技術者の基礎訓練実践事例
−アルゴリズムやコンピュータのしくみ教育の実践報告−
篠崎 直二郎(VALWAY NECソフトソフトサービスセンター)

2.教官課程の設計
君島浩(防衛庁海上幕僚監部)

3.実践報告e ラーニング ファンダメンタルズ
鈴木克明(岩手県立大学)

4.教育部門の戦略立案
森泉清(リコーテクノシステムズ)

5.ソフトウェア研修のモジュール(単元)のテンプレート向け学習目標の動詞
豊永正人(日立ソフトウェアエンジニアリング)

6.成果の出るeラーニングシステム
池田真司(リコーテクノシステムズ)

7. InfoMap法のご紹介
松原光治(インフォアーキテクツ)


<プログラム詳細>

第一部 金沢工業大学のeラーニングの取組み

タイトル:「金沢工業大学のeラーニングの取組み」
話題提供者:
山本敏幸,加原智彦 (金沢工業大学情報処理サービスセンターシステム部)

<報告の概要>
金沢工業大学情報処理サービスセンターシステム部は,大学の情報部門で学部や大学院とは独立組織である.
KITでは教員とは別に独自に教材専門職員がいる点,日本では特異な存在である.
eラーニングシステム化に協力してくれる主題専門家(教員)を対象に適用を拡大している.
これまでに測量学をはじめ基礎の数学(WBTを移行),アナログ電子回路(PPTデータ利用),数学トピックA(WebCTに埋め込み)などのコンテンツを開発した.
開発のプロセスについては,教員へのインタビューから始め,絵コンテ(ストーリーボード),系列設計の作成へと進める.出席者からは,つぎの旨コメントがあった.
全体として先進的である.コンテンツをディジタル化する制作の工程に先立つニーズ分析や学習過程でのテストなど,
コンテンツディジタル化だけでなく専門性を発揮し付加価値を期待する.


<第一部詳細>

(1) KITはかつてCAIを積極的に導入した経験がある.しかしプラットフォームの変化に追随できずコンテンツ 再利用はできなかった苦い経験があり,必ずしもeラーニング開発への期待が大きいとは言えない負からの 出発である.

(2)eラーニングシステム化に協力してくれる主題専門家(教員)を対象に適用を拡大している. これまでにつぎのようなコンテンツを開発した.

測量学I(新規作成)
基礎の数学(WBTを移行)
アナログ電子回路(PPTデータ利用)
数学トピックA(WebCTに埋め込み)


(3)制作面については,ストリーボーディングの誰々さんといった具合に,それぞれ得意技を持った人々がいて充実している.制作担当者として長い年月従事できるよう学部の学生が参画している.

<質疑応答の概要>
開発のプロセスの第一番目でニーズ分析すべきところ教育を提供する人(先生)のやりたいことの分析になっている.
ニーズは学習者にとって何が大切かを基本にすべきである,デザインが必要である.

ISDのプロセスのなかで試験問題作成はインストラクショナルデザイナの専門領域であり,主題専門家による問題が必ずしもよい試験問題ではない.主題専門家(KITの先生たち)のいうとおりにコンテンツをディジタル化するのみでは,
主題専門家の下請けにとどまる.専門性を発揮して付加価値をつけてほしい.

・開発プロセスにおいて学習者側ニーズ分析すべきところが先生側のしたいことの分析になっている.

・学習目標とチェック項目や試験問題のマッピング評価をするとよい.

・コンサルタントになるには,なぜそれが必要なのですかということを問うのがよい.

・コンテンツのメディアありきになっている

あくまでも学習者主体で,教官が 教えるべきことを解っているかどうか,どこがつぼで学生がどう助かるかということにも取り組んでほしい.

<質疑応答の詳細>

山本氏の経歴:  獨協大学外国語学部英語学科卒。 上智大学大学院国際学部外国語研究科言語学専攻博士前期課程修了。
West Virginia University大学院外国語学部言語学専攻修士課程修了。 Michigan State University大学院外国語学部言語学専攻博士課程。 Indiana State University 大学院教育学部Media Technology専攻博士課程修了。 平成1 4年4月より金沢工業大学情報処理サービスセンター勤務。 平成15年本学教授就任。[君島氏がウエブ検索で発見して面識を得て本会に招聘]
 


山本: 我々はコンピュータを利用してもらうというセンター活動の趣旨でeラーニングを担当している。大学の教育改革は別に進められている。金沢工大では10年ほど前から学生1人1台ノートパソコンにして、教室で自分のPCを赤外線通信でネット接続するようになった。その前はデスクトップPC教室だった。

加原: 私はeラーニングチームのメンバ職員であり、ほかにも職員と学生アルバイトがいる。こういうチームは日本では金沢工大にしかない。米国のfaculty resource centerに相当する仕事をしている。
(教員のために教材、素材、参考文献を蓄積・提供するセンター)

君島: 日本の大学にあるのはfaculty research centerだ(ゴロ合わせの冗談)。何も提供しないで研究ばかりやっているから。

山本: LMSを調べたがなかなか良いのがない。やむをえずWebCTを導入したが、ラーニングオブジェクトLOという枠組みがないので、WebCTべったりの教材になってしまう。日本語対応のはずだったのがそうでなかった。問い合わせしてもサポートが良くない。金沢工大はCAIの先進校と言われていたが、ハードやソフトの進歩で非互換問題が起こり、
断絶してしまった。白紙からの出発というより「CAIは成功しない」というマイナスイメージからの出発である。ほとんど米国で過ごしてきたが、日本に来て鈴木先生の本に出会って愛読している。

鈴木克明(岩手県立大): この資料の「先生とのミーティング」は教員のwantsを分析しているのであって分析の下流である。上流の学生ニーズ分析をしているとは言えない。学習目標は何なのか、コンピュータを必要とする現状の問題点は何なのかを取材すべきだ。教員側が学生ニーズ分析ができないならeラーニングチームはコンサルタントの役割を果すべきだ。

森泉清(リコーテクノシステムズ): リコーでは上流の分析を定例化するために日本ユニシスのUNIKIDSツールを導入した。

君島: 海上自衛隊は教官が内容や目標を決めるのではなくて、配置先の部隊から教育ニーズを聴いて内容や目標を決める。

豊永: 学習時間の見積りという作業はどの段階でしますか。

君島: 富士通ラーニングメディアにいた時はエイヤーで学習時間の見積り基準を決めて手引書に載せた。例え経験側であっても必要である。海上自衛隊ではCBT学習の一番遅い人、平均的な人、一番速い人の違いも含めて学習時間の見積り基準を決めた。

君島: LOの展開を決めるというのは日本の教育学での系列設計に相当する。なぜ系列だけ設計するのか。どこで試験問題を出すかという対話設計をしないのはおかしい。

鈴木: 集団へ一斉に教育するという発想のためだ。

鈴木: 章単位にしかテストしないというのは粗すぎる。細かい単位で、教えて、試験して、直させるという教育学の原理を徹底していない。

君島: WebCTが改善要求を聞かないということだが、海自ではINaviの不満を直接メーカへ言ったり、DesignersEdgeを引き合いに出して「こういう機能が欲しい」と学会発表したりして、プレッシャーをかけている。

君島さんの感想: 全体としては先進的である。教育の開発の部分に光を当てていること、開発の作業手順を具体的に整えていること、理屈に頼らずに取材や試作のような教員とのやりとりを重視していることなどである。ただし、作業手順は絵コンテ(ストーリーボード)を書いた後に系列設計をするなど、ちぐはぐに思える部分がある。


第二部 ワークショップ

<第二部詳細>

1.情報処理技術者の基礎訓練実践事例

<話題提供>
タイトル アルゴリズムやコンピュータのしくみ教育の実践報告
話題提供者 篠崎 直二郎(VALWAY NECソフト ソフトサービスセンター)

<報告の概要>
仮想的なマシンとそのアセンブリ言語仕様を与えて,格納,取り込み,分岐など命令処理の動作を追跡させる演習を実施している.学習者は,コンピュータのハードウェア命令に関するシンボル化および命令の動作を理解することで
コンピュータの原理への問いを喚起する.

<内容>
教室での学習者活動内容は,「簡単なコンピュータの原理」を読んで演習問題を解くことである.

<議論の背景>
「簡単なコンピュータの原理」にはアセンブリ言語の仕様を記述している.つぎの操作に関してアドレス付けの説明があるかどうかの点に質問が集中した.
・メモリ(特定番地)からアキューミュレータへデータを取り出す
・アキューミュレータからメモリ(特定番地)へデータを書込む

<質疑応答の詳細>

篠崎 :配布資料の「簡単なコンピュータの原理」を読んで演習問題を解いて欲しい。機械語命令を日本語表現にしたのがミソで、昔からのアセンブラの知識のある人の方が時間がかかるようだ。

鈴木: 「*」の意味が説明のどこを読んでも分からない。

篠崎: 〜〜に説明が書いてあります。

君島: いや、データが主記憶に存在するというのは図で分かるが、プログラムが主記憶に存在するということをどこでも定義していない。鈴木先生が分からないのも無理もない。

鈴木: 「*」は絶対番地なのか。

篠崎: いや決まらない。例えば1000番地かも知れないし、10番地かも知れない。

鈴木: なぜ「例えば」なのか。やはり意味が分からない。

君島: 主記憶の番地が図の上から始まるのか下から始まるのか、0番地が最初なのか1番地が最初なのかを定義していない。初心者はビルと同じだと思って図の一番下が1番地だと思ってしまう。(正しくは図の一番上が0番地)

君島: 電子工学屋の私としてはCPUと主記憶に分けて「レジスタや命令処理回路はCPU側にある」と説明しないと
気持が悪くてしょうがない。それからPentiumのCPUで加算が何秒かかるのかなどと具体的に説明しないと、CPUと主記憶の速度差が伝わらない。

君島: アセンブラというとすぐ加算・減算を教えたがるが、実際のプログラムでは加算や減算などの2項演算の比率は極めて少ない。入門単元は「1を加える」だけで進めるべきであり、加算や減算は
全体をざっと学んだ後で教えればよい。

篠崎: アセンブラや機械語の教育は必要ないという人もいるが、これを教えるとC言語のポインタでつまずく人がいなくなる。

君島: C言語を意識しているなら、機械語命令をばらばらに教えるのではなくて、C言語の文がコンパイルされてできる機械語命令列のまとまりごとにアセンブラを教えるべきだ。アセンブラの教官がC言語のコード生成やPentiumの命令を知らないのが問題だ。またC言語のポインタでつまずくのはくだらない例で教えるからであって、連鎖リストなどの実用的な例で教えれば理解できるはずだ。

篠崎: 私が教えると成績が上がるが、ほかの講師が教えると成績が低いという問題がある。ほかの講師はどうしても初心者が分からない言葉を定義なしで話してしまう。

君島: それはおかしい。語り原稿を用意して講師練習すれば済むことだ。この教材も初心者が分かるように書いたと言いながら、鈴木先生がつまずいたように、分からない部分がある。まだまだである。CASLで教えるのもよいが、現在のPentiumの機械語命令や実行速度を知らない人がアセンブラ講師でございますというのはおかしい。我々が教えたころは実際のコンピュータの機械語命令も実行速度も知った上で教えていた。

鈴木:嘆いていても仕方がない。だめな講師はこういうワークショップへ参加させて、我々が批評して教材をワークショップで書き直すような活動をすればよい。


2.教官課程の設計


<話題提供>
タイトル 教官課程の設計
話題提供者 君島浩(防衛庁海上幕僚監部)

<報告の概要>
教官課程を再設計している.内容は広範で多岐にわたるため課程所要期間をどれだけにするかが懸案である.

・自衛隊教官育成の設計
現行の教育は陳腐化してきているので、米軍の教官育成プログラム、米沿岸警備隊、COURSEWARE社、ランジュバン社などの講座を参考にして教官育成講座を全面的に改版する予定である。

教育基礎科目〜評価科目までの講座の所要時間は講義だけで2か月、演習付きで6か月の講座となった。

防衛庁の教育に関しての特殊性として「体育=体力育成、実戦訓練」などがあり教育カリキュラムにどう取り入れるのかも課題である。

現行5週間を新規講座で1か月に改訂するとしたらどう編成するかが課題である。内容に次の項目がある.
・教官作業の範囲
・各種の多様な課程を担当する教官に共通する教育
・教官の知識,スキルの前提
・利用可能なリソース: ISD手引き書

教官課程の変更もつぎの手続きを踏む
・課程標準(要求仕様)
・課程指導目標(シラバスより詳しい)
・教務実施要領


<発言要旨「1か月の教育期間で完了するための効率化案として」>

・OJTと現場の指導体験(被教育体験)をもちより、改善するための方法をディスカッションすれば、効率的ではないか(アンドラゴジー的立場で)
・アメリカの例にならって、小中高の教育方法から脱却したい。
・講義をなるべくしない、マニュアル(約1000ページ)は事前に読んでくる
・教育課程の中のイベント管理(具体的な行動)を追加したほうがよい
・演習結果として蓄積される受講者の作品を評価する機会を設ける必要がある。
・教官教育のフルスペックを最初からやるのではなく、実施レベル(他人の作った教材をベースに)から入る方が良いだろう。より現実的な体験から、スパイラルにレベルアップしたほうが良いのでは。
・アメリカの例ではトップダウンの教育スタイルが多いが、東洋(日本)の場合には
ボトムアップ型の(体験ベースの)教育という形態もあると思われる。


<質疑応答の詳細>
当初は各自に設計作業をしてもらうワークショップ形式を予定していたが、時間が不足しそうなので、発表しながら聴視者が口頭で意見を述べる形式にした。

鈴木: 教官育成にはアンドラゴジー(成人学習原理)が使える。既に主題に関する指導監督もしているし、受講者として受講した経験があるはずだ。OJTや受講した経験を元にどう教育を改善すればよいか討論するなどである。小中高の悪影響がある。ほとんど講義しない方向で設計すべきである。そうすれば教育時間を短縮できる。

豊永: 教官がいつ何をするかのイベントが作業分析結果に抜けているような気がする。何日もかかる講座を担当していると、途中で上司へ報告するとか、ポートフォリオ(受講者の演習作品)の保存などいろいろな作業がある。

君島: 了解した。教官へ投げて仕上げてもらう。なお、山本先生の発表の時にも話したように、海自では教育内容や目標は部隊が要求を出す。教官課程の場合には、江田島と下総が教官育成教官を持ち、そのほかの学校や教育部隊が要求を出す部隊に相当する。これからそれをやる。

篠崎: 日本では教育の評価というと講師や教材側の批評が抜けがちである。

君島: それは入れたつもりである。

豊永: 教官課程の中でいろいろな教育形態の見本を示すと言うのは、私が米国で講師資格講座を受講した時がそうなっていた。

鈴木: 富士通ラーニングメディアの社員は、講師(実施)から出発して、教材開発へ進むという職歴があるようだが、教官課程も分析・設計・開発・実施・評価という順序ではなくて、実施から始めて
設計は後にするというのはどうか。

篠崎: 早めに評価を実践させるのも有効だ。

鈴木: その通り。軽く評価して、なぜ成績がおもわしくないかを考えさせて、チーム別に別々の教育方法で設計させて、深く評価する、というようなスパイラルにするとよい。

君島: 海自の教官は教育一筋で昇進するのではなく、異動してきていきなり課程設計ということもありえる。しかし、意見を参考にする。課程を新規開発したり再設計したりする機会に出会う教官は多いとは限らない。必要な教官だけに必要な時にワークショップをする方式も検討する。

鈴木: ガニエの9事象は、1から3までが準備、4と5が提示、6と7で成績を返すという流れだ。4〜7をセットにしてチャンク(小さなまとまり)ごとに繰り返すというのが教育学やISDのエッセンスだ。これをしっかり習得させることが大切である。

昼食後の記念撮影



3.実践報告e ラーニング ファンダメンタルズ

<話題提供>
タイトル 実践報告e ラーニング ファンダメンタルズ
話題提供者 鈴木克明(岩手県立大学)

<報告の概要>
eラーニングを社会人教育に取り入れるための基礎づくりの一環として大学院レベルのISD講座を実施した.
遠隔教育を含めたブレンド型教育である.
事前学習して課題を持ちより同期型で運営する.
双方向コミュニケーションできる媒体としてSCSを使い,
全国4つのサイトで同時に約100人が受講した.
[300ページの資料を作ったので電子ファイルを複写することで配布。
(このセッションの場で各自パソコンに複写し,それを閲覧しながら聴視)]
 全部で5日間の講座である。1日は10:30から90分の3時限である。合計で15コマである.
事前学習して課題を持ちより同期型で運営する.
(1)講義30分
(2)モデル答案を取り上げコメント,意見収集

<質疑応答の詳細>
鈴木: eラーニング開発向けのISD教育を遠隔教育を含めて約百人に実施した。300ページの資料を作ったので電子ファイルを複写して欲しい。(各自、自分のパソコンに複写した)それを閲覧しながら聴いて欲しい。 全部で5日間の講座である。1日は10:30から90分の3時限である。合計で15コマである。君島さんの配布資料にはibstpiの教育設計者
技能標準の詳細項目がないが、122項目がある。私はibstpiの標準文書を購入した。

君島: それは知っていたが買わなかった。(後日、詳細項目一覧を見せてくれるようメールで依頼した)

篠崎: 受講者は大学関係者が多かったか。

鈴木: 大学関係者は3割ぐらいで、社会人が多かった。ezPresenter形式の教材で事前勉強してもらい、自分の問題意識を明らかにしてもらう。これは非同期学習である。本番は遠隔地教室を含めた同期型の双方向通信の学習である。

森泉: この教育形態の効用は何か。

池田真司(リコーテクノシステムズ、e-ラーニング推進グループリーダ):私は鈴木先生の講座を東京教室で受講した。面と向かっているのとあまり変わらない。臨場感があり、同時性がある。東京ではウケテいて、どうっとわくことがあった。しかし、それが鈴木先生には伝わらなかったようだ。事前にテキストを全部読むのは大変だった。

鈴木: 受講者は「興味深く受講できたが読んだりレポートを出すのがつらかった」とのことである。レポートは全員がちゃんとやってきて、それを私が読むのが大変なぐらいだった。たくさん書いてくる人がいた。

松原光治(インフォ・アーキテクツ、取締役):紙のテキストは必要だったか。

池田: 300ページを探すのは複数の章に分かれたPDFでは無理である。紙は必要である。書き込みもするし。

鈴木: そのことは昔から議論が絶えない。私は紙派である。学生が提出したレポートを回覧するので読んで欲しい。(レポート回覧)

鈴木: 企業人の答案の方が質がよい。採点基準まで示したのに大学人は無視する人がいる。

篠崎: 企業人は所定の書き方でレポートを書き、駄目だったら指導される。そういうことを日々やっている。

鈴木: 大学人は「基準が書かれたレポート課題は初めてだ」と言っていた。東北会場は学生が多かったので、担当講座を持っておらず、イメージが湧きにくいのもレポートの質が悪かった原因のようだ。最初に実例を見せればよかったと反省した。

鈴木: 学習者制御の単位であるLOを細かくすることがなかなか伝わらない。小松秀圀さんはLOのことをナゲットに例えていた。

豊永: 自己管理学習と言うが、一人でやる形態だけか。米国の講師資格講座では集団活動が入っていた。私の担当製品のネットワークにはトラブルシューティングの事例フォーラムがある。

鈴木: ナレッジマネジメントKMのことか。学習はあくまでも個々の人が目標をもってするという観点でKMとは区別する.Hortonのウエブサイトのハンドアウト(プリント)集は充実している。(ノウハウの事例をパソコンで表示する)

君島: ASTDのスライド集を見ていると、Hortonの資料は私でもこう書きたいと思う資料であり気に行っている。(後日、Hortonウエブサイトのハンドアウトを調べ始めた)

鈴木: 私もそう思う。IDのことを画面設計のことだと思っている人がいることが論争になっている。

君島: 私は画面設計のようなことを造形設計と読んで区別している。

森泉: テキストにEPSSの話題が載っているが、リコーではノウハウ集の充実の一方で保守員の問題解決能力が低下しているのが問題になっている。診断チェックリストの上の方から調べていくというワンパターンになる。実務で経験するごとに確率の高い項目から調べていくのだということを人間に教えようと思っている。

鈴木: 講座は一応終わってレポート採点だけだが、あとの仕事は商品化(CBT化)である。ほかに2コース作る計画もあって大変だ。

4.教育部門の戦略立案

<話題提供>
タイトル 教育部門の戦略立案
話題提供者 森泉清(リコーテクノシステムズ)


<報告の概要>
一連のプロセスを経て事業戦略と関連づけて研修略を立案する技法を述べた.
事業戦略立案の流れは
1)ミッション・ビジョンの設定 2)SWOT分析
3)重要・満足度調査 4)CSF分析 5)戦略MAP作成
および 6)BSCの作成 からなる.


<質疑応答の詳細>
森泉: ISDとしてNECインターナショナルトレーニングの米島さんたちからCRIを導入した。設計の手間が増えると言って導入に抵抗する講師が多い。ISDを必要とする状況に導くために戦略を利用したい。

君島: 設計は東京がやるのか、各地がやるのか。

森泉: 講座は主に地方が設計・開発してDBで管理しています


君島: 海自も各地の教官が設計・開発するが、まかせっぱなしではない。東京の教育課員が地方の分担を決めており、内容の教育項目を見ている。教育課の主な業務は教育項目の変更管理である。

君島: この戦略MAPは森泉さんが作ったのか。

森泉: 私と上司の部長とで作った。

篠崎: 顧客の視点の指標が高過ぎるのではないか。

森泉: 目標管理となるとそこそこの数値ではなく、ある程度背伸びした目標設定が要求される。


君島: ISDを使わざるを得ない状況にするというのはどこのことか。

森泉: 「社内プロセスの視点」というところが、ISDという名前を出さないでISDそのものにしてある。評価の強化は今期の重点目標である。スキル確認というのも改善が必要で、十年ぐらいメンテしていないので使い物にならない。

篠崎: 保守教育にはコールセンター教育を含むのか。

森泉: タッチしていない。コールセンター自身が教育もしている。

君島: 日本にもヘルプデスク協会があって米国のノウハウでしっかり教育がされている。ISDを知っている人も参加している。

森泉: 教育戦略については「こういう職種が何人」というレベルの目標設定しかない。

君島: リコーの保守教育は綿密にできているが、トップの戦略とボトムの綿密なのとの中間の作戦レベルのことが抜けている。富士ゼロックスも富士ゼロックス総合教育研究所がトップレベルのことばかりやっていて、ミドルやボトムを扱っていない。

鈴木: 金沢工大でもそうだが森泉さんのところがIDコンサルタントの役割を果すべきだ。

森泉: ID入門の1日コースはある。米島さんたちが訳したCRIの本も提供している。UNIKIDSツールを導入したが、今までやってきたBSC(バランススコアカード)の機能を入れて欲しいと思っている。

篠崎: ID入門はeラーニング化できないか。

池田: 同期型で実施した。

鈴木: 講師がなかなかCRIを導入しないとのことだが、CRIが得意とするワークショップ(実務持ち寄り作業集会)をやらないのか。

森泉: 全てにコースには適用できていない。重要なコースから採用しているがなかなか普及しない

森泉: 保守教育は商品知識偏重なのが問題で、プロセスモデルを作ることを他社と一緒の協会活動としてやった。お客様とのコミュニケーションも含めている。マクドナルドの下山さんのところは知識教育だけでなくてすばらしい。



5.学習目標の動詞

<話題提供>
タイトル ソフトウェア研修のモジュール(単元)の
テンプレート向け学習目標の動詞
話題提供者 豊永正人(日立ソフトウェアエンジニアリング)

<報告の概要>
学習目標の記述に使う動詞集を作った.
動詞をモジュール(単元)のテンプレートに入れる.
ソフトウェア実装作業の動詞は従来整理済みである.
しかしマシン命令寄りである.そこで,作業指向の演習つき研修教材から目標記述に特有の動詞を抽出した.
講座開発のとき学習目標抽出作業に使用する.

<内容>
・実際製品(教科書)では,インストラクショナルデザイナが単なる動詞ではなく,...するために...するといった
目的を対にして記述している.
・学習者が現実に遭遇する課題で何を実行するか,手引きやテンプレートにインスタンスを記述するのがよいのではないか.
・作業指向の研修教材から購買業務ソフトウェアの集合研修に特化した動詞を抽出した.学習目標の抽出作業に使用する.

例)
-----------------------------------
区別する distinguish
決定する determine
識別する identify
要素を言える name ….
列挙する list
-----------------------------------
説明する explain
導入する introduce
認識する recognize
述べる describe
理解する understand
-----------------------------------
援用する employ
画面表示する display
監視する monitor
起動する start
却下する deny
使用する use
承認する approve
生成する create
設定する set up
走行させる run
辿る navigate
探索する search
チェックする check
追加する add
変更する change
問題解決する resolve
ロードする load
-----------------------------------


<質疑応答の詳細>

篠崎: モジュールには階層があるのか。

鈴木: モジュールは特定の階層を指す。コース、ユニット(単元)、レッスン(授業)、モジュール、セションという階層である。なお、オブジェクトLOは階層の単位ではなくて、どの単位でもLOになる。

君島: 授業と言うと別の意味もある。一時限ということか。

鈴木: そのとおり。

松原: ひとつの固まりの構成要素はInfoMapでは「7±2」の個数が適度であると教えている。階層構造にするのはそういう理屈による。

君島: テンプレートは今回豊永さんが作ったのか。

豊永: 組織(ライセンス供与元)に以前から存在する。

鈴木: テクニカルな話題であり,目標を書くことは実はかなり難しい仕事である。なかなか書けないものだ。
それよりはテストをちゃんと作ることは教えやすい。そちらに力を入れることをお勧めする。そのテストを教育受講前に合格した人は受講不要と断言できるかどうかという観点でテストを作る。飛び級という考えが日本にはない。

君島: 米国の飛び級の理屈は米国人のマッキンさんに質問してもよく分からなかった。特殊教室と同じで、同期生と一緒に学習するのが著しく苦痛な人の救済策ではないか、と考えたら元文部事務次官の人が「そうだと思う」と答えた。千葉大学で1年飛び入学というのをやったが、1年ぐらいの差は苦痛とは言えないと思う。

鈴木: 期間の問題ではない。飛び級ではなくて飛び科目でもよいぐらいだ。

松原: InfoMapの講座では最初に自分の学習目標を書かせる。まともに書ける受講者は少ない。書ける人は受講後の成績もよい。

篠崎: 英語と日本語の両方が書いてあるが、これらの動詞は和訳講座の日本語から抽出したのか、それとも元の英語講座の英語から抽出したのか。

豊永: 英語の方である。ISDの専門家が設計に関わっているのでちゃんとした目標記述になっている。

君島: 私は国防総省の動詞例の一部だけこの会合で発表したことがあるが、もともとの国防総省の原典は読んだか。

豊永: 読んでいない。[編集者注: 国防総省のハンドブックは配布先無制限で公開されている.
U.S Department of Defense,DEPARTMENT OF DEFENSE
HANDBOOK INSTRUCTIONAL SYSTEMS DEVELOPMENT/SYSTEMS
APPROACH TO TRAINING AND EDUCATION(PART 2 OF 4 PARTS)
MIL-HDBK-29612-2,1999
http://www.atsc.army.mil/itsd/imi/Documents/HB2_ALL.pdf]

君島: この動詞例は国防総省のと一致するものが多い。肉体労働系がないのが違うだけ。

森泉: テキストマイニングの便利なツールがある。例えば、アンケート回答の中の苦情の中から動詞を切り出して、Excelのピボットテーブルで統計を取るようなことに使える。

君島: 目標だけでなくて講座概要の書き方も以前に東京電機大の例を調べたことがあるが問題だ。LMSのメーカに対して「講座概要のボックスを提供しているのに、講座概要の書き方のヘルプ情報はないのか」と質問したが、興味を持ってくれなかった。

篠崎: 付録3が変だ。addがあるのにsubtractがないとか、encodeがあるのにdecodeがないとか。転記ミスではないか。

豊永: ミスしたかも知れない。
(編集者注: 原典 Shooman M.L., Software Engineering,McGraw-Hill, 1983 を再確認の結果,にもともと「subtract」,
「decode」 が入っていない.「locate 」は転記ミスで漏れていた.)

鈴木: なかなか良い仕事だが、メイガーの目標定義の仕方やブルームの目標動詞の分類学は古い。ガニエが「capability verbとaction verbは区別せよ」と言っている。「demonstrate by write」や「demonstrate by speak」のbyの前がcapability verbで後のがaction verbだ。「state by explain」「classify by identify」という具合だ。capability verbの違いはそれぞれに向く効果的な教育手法の違いに対応するので、教育設計がやりやすい。action verbは教育手法の
違いに対応する階層ではない。

豊永: 集合とインスタンス(事例)との関係か。

鈴木: まあ、そんなところ。

君島: 確かにブルームの分類は、国防総省が手直してているように、扱いが難しい部分があった。ガニエのどの文献を読めばよいのか。

鈴木: 結構古い本にも載っている。持留先生が和訳した本にも載っているはず。

君島: その本は持っているので調べる。海自の手順書にはブルームの分類を載せてしまったのでガニエのに直す。

[編集者注
持留先生が和訳した本はつぎのとおり.残念なことに絶版.
・ガニエ,ロバート・M.,・ブリッグズ,レスリー・J.,持留英世,持留初野 共訳,カリキュラムと授業の構成,
北大路書房,1986.原著第4版が流通している:
Gagne, Robert M.Briggs, Leslie J. /Wager, Walter W.,
Principles of Instructional Design 4th Edition,
Harcourt College Pub, 1992]

6.成果の出るeラーニングシステム
<話題提供>
タイトル 成果の出るeラーニングシステム
話題提供者 池田真司(リコーテクノシステムズ)

<報告の概要>
リコーテクノシステムズ鰍ナは、e-ラーニングの作り方については従来から効率的な作り方をしていたが、学習効果は測っていなかった。

今回、学習効果という視点から現状の調査、分析を行い、次の内容を報告した。
・ IT技術系コンテンツを中心にほぼ100%内作しており、作成担当もより現場に近い部署に移行してきている
・ 開発ツールも当初のHTMLからPowerPointデータの変換、VideoOnDemandコンテンツ作成ツールによるものに進化してきている
・ コスト削減、品質、スピードという効果の指標について検討し、教材開発から展開までの速度、集合教育とは比較にならない育成速度、変更・改訂がタイムリーに可能である点などの効果が実証できた
・ VideoOnDemandコンテンツへの取り組みについて、受講者からの反響と今後の課題を明確にした。

<討議内容1:ID適用の必要性>
さらに効果的なコンテンツ開発を行っていくうえで、「Instructional Designの適用が必要」という視点からいくつかの意見、提案が出された。

・ 事前確認テストを使って、受講内容を選択させることができる
・ チャンキングする必要あり・ 教材開発の標準化が必要では
・ 現状の教材に、Instructional Designの考え方を適用すれば、格段に改善できそうだ
・ 適用前と適用後の教材を使って、テスト結果の比較検討もできるのでは。

<討議内容2: VOD教材>
VideoOnDemandコンテンツとして作成された「評価者研修」のデモとその社内の反響についての発表について、次のような議論があった。

・ 出演者の話し方のトーンの選択が重要ではないか?
・ 事前テストを入れて、学ぶ必要のある人とない人を区別する必要があるのではないか?
・ やはり、デザインが大切。

「品質」はカークパトリックのレベル3
類似講座をeラーニングでない形態で実施していたならば比較できる.
(君島)教育の効果を測ることは,基本的には成績および効率である.
業務の評価は既に確立しているから淡々と実施するのみである.

デザインがない.提示が100枚続いていきなりテストだ.
つぎの改善をするとよい.
テストとコンテンツのマッピング
テストの実施結果,正解率などの評価

<質疑応答の詳細>
君島: HTMLをいじるのか。HomePage Builderか何かで開発するのではないのか。

池田: 最初はHomePage Builderでも書けるが、仕上げるのにHTMLをいじる必要がある。

君島: それはおかしい。海自の教材開発ではHTMLの知識は必要ない。

池田: i-Mode用コンテンツの開発にはINaviを使っている。

池田: VOD用コンテンツは新規に撮影した。従来のはアナログだったので。

池田: VODでないコンテンツの受講者からは反応がない。メール質問はゼロである。

君島: WindowsXPの修了率が高いのはWindowsMeまでの前提知識があるからではないか。

池田: そうではない。仕事上、必要性が高いからだと思う。

池田: IT系コンテンツはすぐ新しい版が出るので教材の寿命が短い。e−ラーニングは早期に対応できるので、こういう科目に向いている。

松原: 品質と言えばISO9001品質保証の取り組みは最初のころはよかった。今は格好付けだけになっている。審査員をやっていたが馬鹿馬鹿しくなって今はやめている。

君島: 日科技連のTQM運動に参加していないようでは品質は上がらない。

篠崎: 仮定に基づくコスト削減効果というのは変だ。eラーニングにかかった費用が抜けている。

池田: eラーニングにかかった費用は、ハード費用が約2千万円、コンテンツ開発費用は各部門、そのほかに受講者の人日がある。私のいる開発センター員は二人である。

篠崎: 人件費が年間2千万円かかっていることになる。

君島: 効果と効率という言葉の使い分けは、効果が成績を中心とする結果関係であり、効率が開発費用や実施費用などのことである。

君島:保守品質による教育評価はレベル4評価である。レベル2の成績評価はしないのか。もともと成績評価をしていないなら、eラーニングでも効果を言う必要はない。

池田: 成績評価はしている。70点以上が合格である。

森泉: 私はレベル3評価を強化する予定である。

君島: 合格率が従来より高いというのを、eラーニング効果を示す主役に使うべきではないか。

鈴木: 成績評価は必須である。評価なしに教育したとどうして言えるのか。

君島: 品質評価は教育とは別にちゃんとやっているか。

森泉: 保守の品質評価はちゃんとやっている。

君島: 品質評価や業務評価は確立した分野なので、淡々とやっていけばよい。

篠崎: 教育効果は事前試験と事後試験で比較する方法がある。

池田: 既存のPowerPointスライドをHTMLコンテンツに変換するのはHTMLで新規に作るより速い。ただし語りを表示文面に追加する作業がある。

君島: コンテンツは自分の目の前のパソコンで見るので、字が増えて文字が小さくなるのは許される。

鈴木: スライドの変換ということは途中には試験問題は入れていないのか。

池田: 入れていない。最後に20問解かせる。100問用意してランダムに選ぶ。

鈴木: 途中でテストをしないというのはひどい。ちょっと直せば良くなる。一日かければできるはずだ。

池田: 各地の現場が担当するのでなかなか徹底しづらい。

君島: 豊永さんのように途中のテストの頻度の標準を決めたらどうか。オーサリングツールの講習会の中で、テストの頻度をさりげなく教えてしまうとよい。

鈴木: この教育ワークショップに連れて来て直させれば簡単である。

君島: 海自では既存のPowerPointからの変換というのはあまり話題にならない。異動してくるのでPowerPointもHomePage Builderも初めてのツールだという状況にある。

君島: VODのデモをする前にデモの内容をプレゼンする必要はない。

篠崎: デモを見れば分かることだ。

池田: VODの方はなぜか評判がメールで寄せられる。AVのノリが良いせいだと思う。(管理職が対象だからではないか。管理職ともなると人を褒めるというのも仕事の一つだから)

君島: これはプレゼンター(発表再生や遠隔発表)という種類のコンテンツであってVODではない。VODというのはビデオ作品をそのまま流す種類を言う。文面もビデオの中に表現する。

池田: 了解した。

篠崎: テレビの通信販売番組みたいなノリだが、この主題には良くない。

君島: 人事査定という人生を左右する深刻な主題なのにこれは良くない。

君島: 人事査定の認識の悪い例から入るのはおかしい。初めて管理職になった人に先入観はないはずだ。

鈴木: 〇×クイズで学習経路が変わるのか。

池田: 変わらない。

君島: そもそも「人事評価」をいきなり「評価」と表現している。人事評価であることは当然だという決めつけである。文面をブラッシュアップすべきである。

君島: 人事査定の科目なのに査定そのものの演習がない。認識の話題が延々と続く。SIGEDU仲間の小川よし子さんがいた日本DECの人事評価講座は、査定のケースをいろいろ出して、査定がまずいと復習させるようになっている。例えば、60点以上70点以下におさまるべきケースで50点とか80点と評価したら管理職にさせない仕組みになっている。人事査定の制度を作るには、日本IBMかどこかに査定のやり方を調査に行くとよい。

鈴木: メールの感想は面白い講座だったというだけで、受ける必要のない人だったかも知れない。受ける必要のあった人なら内容について褒めるはずだ。

君島: 受講中に文書を読むということが殆どなかったと評価しているが、保守員には音声が向いている(注:池田氏の担当職種ではないが)。PowerPointから変換したコンテンツは語りを文面に入れているが、職種によってはナレーションの方がよいと思う。

7.InfoMap法研修のご紹介
<話題提供>
タイトル InfoMap法研修のご紹介
       〜e-Learningを併用した構造化ドキュメンテーション
       研修コース「システム開発用ドキュメントの作成」
       を紹介する〜
話題提供者 松原光治(インフォアーキテクツ)

<報告の概要>
InfoMap法のエッセンスを紹介したうえ、e-Learningを併用した構造化ドキュメンテーション研修コース「システム開発用
ドキュメントの作成」を紹介した.InfoMap法では、インフォメーションタイプを識別して,それらに対する最適な表現方法を選ぶことによりコミュニケーションの効率,品質を高めることをめざす.

<InfoMap法の概要>

○ InfoMap法が教えること

InfoMap法にはつぎの構成要素がある.

−インフォメーションタイプ
−研究にもとづく原則
−新しい情報単位
−インフォメーションタイプごとの表現の仕方

○ 誰がどのように使っているか
当初軍がスポンサーの研究者の集団で,1970年代に数多くの論文を出した.
1980年代にAT&T,DECなどがビジネス文書の作成に採用した.

○ 適用範囲と期待効果
各種のビジネス文書、オンライン文書、ウエッブなどに適用でき、情報の受け手、
送り手、組織全体に関わる効果を上げている。

○提供している研修およびコース紹介


○インフォメーションタイプ
インフォメーションタイプは下記の6つからなる. 様々な伝達対象をこれらのどれかにあてはめることができる.
構造
概念
原則
プロセス
事実
手順 〜してください,アクションを促す

○椅子のたとえ
椅子の「概念」を表現すると,椅子とは4本の足のある...するための家具である.椅子の「構造」を述べるならばその構成要素を図で表現して伝達する.
椅子の製造にもし接着剤を使ったならば,乾くまで待つ.と守るべき「原則」があるということである.


○研究に基づく原則
InfoMap法で使う原則を示す.
チャンキングする 7±2
関連性を確保する
レベルを付ける
一貫性を確保する
図表を組込む
詳細情報を組込む
チャンクとラベルを階層化する


○InfoMap法における情報の階層構造

InfoMap法では、文書を構成する要素を次のような階層で捉えている。

文書
 |
節、章、部(大きな文書で必要)
 |
インフォメーションマップ
 |
インフォメーションブロック(英語の パラグラフ、日本語の段落に変わる新しい単位)
 |


単語


○表現の仕方
インフォメーションタイプ毎に最適な表現の仕方が
ある。

手順の表現の仕方
・番号つきリスト
・手順表
・手順選択表
・フローチャート
 


<質疑応答の詳細>
松原: 私は初めて参加したがソフトウエア技術者ではない。もともと金属の開発技術者だった。Fortranのユーザだった。

君島: 私はFortranコンパイラの開発者だった。

松原: オイルショックの時に翻訳支援ソフトウエアの仕事へ転職した。英訳の単語候補を挙げる方法がいかにもユーザ指向でないと指摘したが、聞き入れてもらえなかった。結局失敗してその会社はなくなった。技術翻訳の仕事に就いて自動車製造文書の英訳をした。日本文の意味が分からないことが多いので、よくメーカまで確かめに行った。A4判1ページを訳して何千円と安いので、そんなことをしていてはペイしなかった。「日本ではテクニカルライティングを教える学校がないが米国にはテクニカルコミュニケーションの学科が140もある」と当時、提言して回った。本格的に勉強しようと10年以上前の1989年にInfoMap講習を受けた。米国人を日本に招いて英語で講習する商売を始めたが、教えるための講習を私が受けて日本語で講習するようになった。

君島: その頃にテクニカルライティングがブームになって学会もできた。しかし、現在は低迷している。その辺のことも議論したい。eラーニングやISDもそうなる恐れがある。

松原: インフォメーションタイプを区別すると、構造化が容易になる。六つに該当しにくいのは先端情報、政治情報、宗教情報だけだと言われている。従来の作文教育は「事実と意見を分ける」という単純なもので構造化の役に立たなかった。(椅子の例で六つのタイプを説明した)

松原: チャンキング(小さなまとまりに分ける)は「7±2」又は「5±1」以下にするという経験則を使う。チャンクの主題が何かを明確にして関連する情報だけをそこに入れる。

松原: パラグラフ(段落)という概念も古くなりつつあるので、ブロックという概念にした。日本の国語教育は下層の単語と文しか教えない。

君島: そのとおり。日本ではパラグラフや章などの概念は学問ではないと決めつけている。

篠崎: 左右を結ぶ矢印の意味は何か。

松原: 今まで左のような概念を使っていたのを右に置き換えるという意味である。

松原: 「表現の仕方」は英語ではpresentation modeである。

君島: マップというのは文書全体のことではなくて、章や部の単位のことか。文書全体は複数のマップで構成されるということか。

松原: そのとおりである。

松原: 日本では少しづつ広がり始めてているが、中ではビジネスコミュニケーション講座が売れている。

松原: InfoMapのeラーニングコンテンツは米国で開発された。集合教育の前に学習する。

松原: 1991年に富士通の沼津工場にInfoMapを売り込みに行ってマッキンさんなどにあった。(マッキン氏は米国人でしかも英語学科の専攻である。富士通でテクニカルライティングの仕事をしていた)

君島: 1991年より前に富士通は富士通オーストラリアからテクニカルライティングを導入済みだった。私の部下の根岸君というのが担当した。1991年には文書技術課ができていて、作業手引書も開発工程も審査制度も教育講座も確立していたから、InfoMap.法を導入しなかったのだろう。半導体事業部では採用したと聞いたことがある。取扱説明書の専任制度も作って、富士通静岡エンジニアリング(現在の富士通インフォソフトテクノロジ)などが受託作業をしている。分厚い市販本も出版したが絶版になった。それを持っているので興味があったら防衛庁に来て欲しい。

君島: InfoMap法の研修の必要性を問いかけているが、おおむね必要と思う。私が慶應藤沢で講義した時には、学生によっては「先生の教科書を読めば十分だから授業は不要だ」という者もいた。実務手引書で済めば教育は不要というのがISDの考え方だが、使う気の乏しい人を改心させたり、ボリュームある技法を習得させたり、文書設計には上手下手があることを考慮したりすると、研修はおおむね必要だと判断する。

森泉: リコーの別の部門でドキュメントソリューションという商売をしている。

君島:リコーにはテクニカルライティングの学会で活動しているプロがいるはずだ。1990年の米国の大会などで一緒だった。(後の調べで白井昇氏と判明)

森泉: それは取扱説明書の部門のことであって、ソリューション部門にはいない。

君島: それはひどい。松原さんの講習を受けるだけでも不十分だ。文書のプロ部門なら手引書なり工程管理なりのノウハウを整備するべきだ。松原さんにそういうものの確立までコンサルしてもらったらどうか。

篠崎: 構造化ドキュメントもブームになってダメになった。松原さんの著書は買えるのか。

松原: 絶版になったものが多いが、日経BPから出ているのは買えると思う。

鈴木: 題名を教えて欲しい。

君島: 松原さんの名前でウエブ検索すると見つかる。
[編集者注:ホーン,ロバート E.著,アデプト社・松原 光治 訳・著,ハイパーテキスト情報整理学〈実践編〉―説得できるビジネス文書構築術,日経BP出版センター,1995]

以 上