SEA教育ワークショップ
SEA Autumn Workshop

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第10回 SEA教育ワークショップ1996 報告
− 技術革新に対応する教育方法論・技術のあり方について −
主催:ソフトウェア技術者協会・教育分科会 (sigedu)

1.期 日: 1996年10月24日(木) 午後 〜 10月26日(土) 正午 (2泊3日)【現地集合,現地解散】

2.場 所: ホテル プリシアリゾート八丈(〒100-15 東京都八丈島八丈町三根886)

3.主要テーマ:「効果的な教育」
日々ダイナミックな変動の続く業界動向に対応すべく,如何に効果的/効率的な教育を実践していくかという観点で,次世代教育のあるべき姿を模索します.
4.スタッフ: 
 実行委員長:     橋本 勝(山一情報システム)
 プログラム委員長:  和田 勉(長野大学)
 プログラム委員:   川辺 正明(ソフトサイエンス),河村 一樹(尚美学園短大),
             君島 浩(富士通LM),篠崎 直二郎(NECソフトウエア),
             杉田 義明(SRA),中園 順三(富士通BSC),
             牧野 憲一(オムロンソフトウェア)


(ソフトウェア技術者協会誌 SEAMAIL Vol.11, No.1 (Aug.,1997)掲載)

第10回SEA教育ワークショップ報告−WS内容報告

プログラム委員長 和田 勉(Ben Tsutom WADA)

0. はじめに

プログラム委員長としてのレポートをまとめなければ、ということで、まずは昨年(第9回・越後湯沢)の報告(SEAMAIL Vol.10, No.2-3, pp.32-80)を読み返してみました。昨年までのプログラム委員長であった河村一樹先生はたいへん饒筆な方ですので、正式なセッションのことから自由時間や酒の席のことまで正確かつことこまかにレポートされています。私は論文を書く際でも苦しんだ末にやっと文章を生み出すほうですので、とても同先生のまねはできませんが、私なりの今回の状況の報告を書いてみます。

1. SEA教育ワークショップ−開始まで

今回はちょうど10回目となったSEA教育ワークショップですが、このワークショップは教育分科会(SIGEDU)を母体としており、参加者のうちかなりの方は教育分科会月例会の定例/準定例メンバです。そのスケジュールの大枠も、もう一つの節目イベントである1月定例の教育フォーラムとともに前年度最後の分科会月例会で決められます。

昨年度(95年度)の第9回は、シーズンオフ(雪のない)越後湯沢のホテルで行なわれました。今回はうってかわって八丈島のホテルで、となりました。私は大学に属する者(かつ私立すなわち非公務員)ののんきさで、八丈島まで行くぐらいならグアムかサイパンのほうがむしろ飛行機代は安いのでは?などと言っていたのですが、会社所属の方々の政治的事情では国境を越えるかどうかで大違いらしく、そのため私の案は却下され八丈島と決まりました。

準備段階ではほとんどすべての連絡を電子メイルで行ないました。実行委員長の橋本勝氏(山一情報システム)と私、および昨年までの両委員長や委員の方々の間でのメイル交換に始まり、招待講演者候補への打診、参加者候補への呼びかけなどがすべてメイルで進められ、講演者・参加者となることが固まってきた人達が一人一人To:(あるいはCc:)フィールドに加えられてゆきました。会期が迫ってきたころは誰からのメイルにもTo:&Cc:には同じアドレスが並ぶ「実質的メイリングリスト」になっており、それには委員長・委員などだけでなく参加予定者全員のアドレスが並んでいて、皆がそれを読んで準備を進めていました。

メイル一つで随時参加者すべてに連絡できたため、事前の準備段階からすでにアクティブ、かつ全員がすでに集まっているかのごとくきめ細かに進めることができました。また全員間の打合せとは別に、まだ顔を合わせたことのない参加者同士でメイルを交換して意見交換を始めるということも行なわれていたようです。実感としてこのワークショップは、八丈島で3日間だけ行なわれたのではなく、その数カ月前から電子ネットワーク上でじわじわと始まり、10月24 日には会場を電子ネットワークから八丈島のホテルに移して続けた、というべきでしょう。

準備検討の末、本ワークショップ(の八丈島での部分)は、招待講演者に石原亘氏(京都造形芸術大学)を招き、招待講演セッションの他に第1、第2、第3、およびイブニングの各セッションを行なうことになり、参加者は14名(実行委員長、プログラム委員長および委員、ローカルアレンジメント担当オブザーバを含む)が集まりました。進行方式は前年までのものをほぼ踏襲し、まず講演者に講演をしてもらい、そのあとそれをもとにして(しかし必ずしもその範囲には限定せずに)かなり長時間の討論を全員で行なう、という方式で各セッションを進めて行くプログラムとしました。

開始日の24日に(一部の人は都合で25日に)参加者は海路で空路でと、次々に八丈島に到着しました。当初は多くの人が前日夜発の船での海路を考えていたようですが、やはり都合で空路となる人が多く、船でとなったのは私を含め2名だけでした( * )。あいにく海が荒れ、当日朝に島に到着する時には私はてきめんに船酔いの状態になっており、あとから空路の参加者達が到着するのをホテルの部屋で横になって迎えるはめになってしまいました。

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( * )私個人の事ですが、船に乗るまでの旅程もひと工夫しました。私は長野県上田市に住んでいますので、前日夜発の竹芝桟橋からの船に乗るためには、その日の昼間にまず東京へ行かなければなりません。船内には特等室以外は風呂・シャワーがないらしいことはわかっていました。昼間に汗をかいたまま、それを流せずに寝るのは不快なものです。そこで私は直接竹芝桟橋へ行かずに、(東京でのついでの用事を済ませた後)まず浅草へ行き、そこで銭湯に入り、そのそばの吾妻橋脇から船(水上バス隅田川ライン)に乗りました。この船はすでに八丈島行きの船が停泊している竹芝桟橋の脇を通って、隣の日の出桟橋まで運んでくれます。あとは隣の桟橋まで歩いて、夕食のあと船に乗るだけでした。

この「東京で風呂に入って船から船へ」プランは全く快適に実行できました。その夜、船内で苦しい船酔いに陥るまでは…
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2. 第1日

例年通り、事務連絡の後、全員がそれぞれ自己紹介を行ないました。発表用機器は例年通りのOHPに加えて、篠崎直二郎氏(NECソフトウェア)の尽力により、Powerpointのファイルをフロッピーで持ち込みそれを会場の19インチTV画面に表示できるセットが用意され、この自己紹介でも以降のセッションでも必要に応じて使い分けました。投影型ディスプレイではないので全員でのぞき込むには画面が小さいのではと心配されたのですが、実際にやってみるとこの人数では十分な大きさでした。

続いて第1セッション(講演・篠崎直二郎氏、進行・牧野憲一氏(オムロンソフトウェア))が行なわれました。篠崎氏は、「新しい教育への取り組み」と題して、学校教育のイメージが染み着いた今までの集合教育から抜け出して、今後は様々なネットワークやコンピューティング環境を用いた新しい形の教育を行なうことについて論じられました。

夜は例年通り、夕食後懇親会となりました。昨年に比べ今年はややおとなしいまま終ったように思います。女性参加者二人が早めに自室に引き揚げてしまったことが一因かも知れません。これは2日目夜もほぼ同様のようすでした。

3. 第2日

参加者のうち2名がこの日からの参加のため、今年は最重要セッションである招待講演セッションを第2日に行ないました。この日の最初の空路便でついた二人を迎え、石原亘氏の講演(進行・和田)が始まりました。

同氏は私(和田)の旧友ですが、そのつてでお願いした7月の京都でのSEA関西のフォーラムでの発表をきっかけに、それを発展させた発表をしていただくべく今回招待講演に招いたものです。今回の講演では、京都造形芸術大学での芸術系学生に対する情報リテラシ教育の経験やその方法論・思想に関して語ってくれました。興味深かった項目は:

  • 芸術系学生に自画像をマウスで描いて入力させて「情報の意識化」をさせる
  • イフェクト扱いにはまり込んでしまう者に対する「まんじゅう屋の小僧方式」
  • ハイパーテキストでコンピュータのmagicの面も教える(Computer=Illusion+Magic)
  • 学生が面白いと思ったことはやめさせないで済むように「1/2+1方式」
  • 失敗例:エントロピーの計算での表計算実習
  • 「大学とは学習を支援する(そのための緊張を維持する)装置」
  • 「発想法、記録法、取材法、コミュニケーション法」
  • 「情報リテラシー教育があって初めて学校なのだ」という位置付け
  • などでした。

    また講演中は、わざわざ京都から抱えてきたMacintoshを使っての学生作品などの披露も織り込まれ、臨場感あふれる講演でした。

    昼食後は自由時間で、希望者は八丈富士登山が予定されていましたが、あいにくの山頂の雲で登山困難と判断され、牧場、黄八丈の工房、資料館などのツアーに変更になりました。

    午後後半には第2セッション(講演・斎藤勝弘氏(ソフトサイエンス)、進行・川辺正明氏(同))が行なわれました。ソフトウェア技術者リテラシーに関し、まず企業人としてのリテラシー、ついでシステムエンジニアとしてのリテラシーとして必要な事項を述べ、また企業、学校、家庭、社会の教育役割の分担についても述べられました。「今の若い人達はあって当たり前の常識が無い」という同氏の強い不満に対し、「『常識の非常識』ということも言われている」「常識とはその集団内で暗黙に取り決められているルールにすぎない。知らない人に対しては非難するのでなく教えてあげるよという態度で臨むのが良い。」などの意見が出されました。

    また第2セッション討論の一部として、進行の牧野氏から「英語リテラシー−技術情報の80%は英語」「ソフトに限らず『つくらない』−とことん探す、流用する、市販品で済ます」などの内容の小発表が行なわれました。

    夕食後は半番外として「イブニングセッション」(ピータ・バーニック氏(SRA))が行なわれました。同氏はかつての世界一周旅行のはてに日本に着いて滞在し、一旦離日後再来日し今回の開催地八丈島で国際交流員として長期滞在した経験から、日米の文化比較、そしてその一端でありそれを支える教育の日米の違いについて考えを述べられました。「どちらがgood/badということではなく…」といいながらかなり日本にとって辛口の、そして同時に大いに共感させられる内容でした。

    なお「元島民」の同氏は当然かの地に多くの友人があり、自由時間のツアーでは、たまたますれ違った人が「ねえねえ今の人ピータじゃないの?」と話しているので「そうですよ、おーい、ピータさーん、知合いの人だよー」と呼び戻す、などという一場面もありました。

    4. 第3日

    最後のセッションである第3セッションは南真由美氏(日本ユニシス)に講演していただきました。進行は前回に同じ位置のセッションでの発表で好評を得た平山順子氏(山一情報システム)に務めていただきました。南氏は「基礎教育からの脱却」と題して、教育ビジネスのPC基礎操作教育のインストラクタの経験から:

  • 最近の大勢はパソコンになり、一人一台あてで数百台まとめて導入するので まとめて教えて欲しいと言う依頼が多く、集合教育が増加している
  • 問題点としては:
  • 教育の時間の問題−短期的な詰め込みの教育で演習は無理
  • 目的の問題−「一体(客先の推進者は)何をさせたいの」と言いたくなる、 ただ「導入するから使えないと困る」ということで受けさせるものが多い
  • 次に来るべき教育は何か?−訓練を積めばインストラクタには誰でもなれる
  • などの問題提起がなされました。

    すべてのセッションが終り昼食が済んだ時点でワークショップは終了しました。帰りは全員空路(一人は翌日の便)でした。参加者の約半数は夕方の便のため、それまでの時間を利用し、前日天候の理由で登れなかった八丈富士に登り、島の温泉を楽しんでから帰路につきました。

    5. おわりに

    私は今回初めてのプログラム委員長で勝手が分からないこともあり、参加募集の段階からこのこの報告に至るまで、実行委員長と前実行委員長に電子メイルでその都度言われて「ああそうか、それは私がやるんだな」と個々の仕事を一応行なっただけでした。次の機会にはより積極的に役割を果たさなければと思います。

    冒頭にも書いたように、このワークショップの参加者は教育分科会の定例/準定例参加者を中心としたメンバに固定されがちです。数少ない新しい参加者も、以前からの参加者の誰かと親しい人でその人が引っ張ってきたという場合が多く、全くの「飛び込み」での新規参加者はまれです。いつものメンバが年一回泊り込みで討論をするというのも意義は大きく、それが「何度も参加しても目に見える成果・結論が出てこない」などと言って非難されやりにくくなることもあってはいけないと思います。しかし一方で参加者の1/3〜1/2は新規参加者であるといいとも思います。また定例メンバの中に新規の人が少数入ると、その気はなくても疎外感を与えて居づらくさせてしまいがちなので、それを意識して避けて新規参加者がアクティブに本音を言えるように気をつけなければと思います。