ソフトウェア・シンポジウム 2018 表彰論文

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SSでは,毎年,最優秀論文賞,論文奨励賞,最優秀発表賞の3つを表彰しています.今回は,このほかに,優秀論文賞を追加しました.今回の受賞論文と著者は次のとおりです.

最優秀論文賞

[研究論文]バグ修正時間を考慮したソフトウェア最適リリース問題についての一考察
岡村 寛之, 住田 大亮, 土肥 正 (広島大学大学院工学研究科)
要旨:
本稿では,バグ修正難易度を表す指標としてバグ修正時間を用いたソフトウェア最適リリース問題の再考を行う.特に,従来のバグ修正時間を考慮したソフトウェア信頼性モデルにおいて,バグ発見時刻と修正時間が独立であるという仮定を修正し,バグ発見時刻と修正時間の相関を表現することができる一般的なモデルフレームワークを取り上げ,そのモデルフレームワークにおけるソフトウェア最適リリース問題について考察する.
研究論文

優秀論文賞

[研究論文]データ値の差異とデータフローの視覚化によるデバッグ補助手法の提案
神谷 年洋 (島根大学大学院自然科学研究科)
要旨:
クラッシュしないバグのデバッグ,すなわち,プログログラムの実行中に不正な値が生成され,ヌルポインタエラーなどで中断されることなくプログラムの実行が続き,一見正常に終了するものの,不正な出力が得られる不具合を修正する状況を想定したデバッグの補助手法を提案する.
提案手法は動的解析手法の一種であり,対象となるプログラムを実行して実行トレースを収集し,実行トレースから不具合に関連するデータフローと関数呼び出しを含む部分列を抽出する.不具合に関連するデータフローを一覧できるようにすることで,開発者が不具合の原因を理解し,ソースコード上で修正を行うべき場所を検討する作業を補助する.抽出される実行トレースの部分列は,プログラムの実行開始から不具合に至った実行系列を含むものであるが,値の差異に着目した絞り込み,および,データフローによる絞り込みにより,もとの実行トレースよりも小さなものにすることで,一覧性を高める.
研究論文

論文奨励賞

[研究論文]ソースコードからCDFDへの変換によるSOFL仕様記述の支援ツールの提案
新城 汐里, 劉 少英 (法政大学情報科学研究科)
要旨:
ソフトウェアを開発する際に機能を定義する仕様の記述が疎かになる場合がある.これはレガシーソフトウェアにも該当することであり,仕様記述が疎かであるどころか存在しない場合もある.この問題を解決するためにJava ソースコードから CDFD を生成し,SOFL 形式仕様の記述を支援するツールを提案する.これにより仕様記述にかかるコストを軽減し,ソースコード中のバグの検出を助ける.
研究論文

[研究論文]要求獲得のためのヒアリングにおけるゴール指向要求分析の活用 ~「ゴール指向 Lite」の提案~
菅原 扶 (株式会社インテック), 室井 義彦 (DIC株式会社)
山口 俊彦, 山崎 哲 (テックスエンジソリューションズ株式会社)
石川 冬樹 (国立情報学研究所), 栗田 太郎 (ソニー株式会社)
要旨:
我々は,ソフトウェアシステム開発プロジェクトにおける要求定義での課題解決のために,新たな方策「ゴール指向 Lite」を提言することにした.従来からある要求獲得手法の「ゴール指向要求分析」の本質だけに注力することで,迅速かつ簡易に実施できる方策として「ゴール指向Lite」を創出した.
実験として仮想の業務システム開発プロジェクトにおける要求定義での「ゴール指向 Lite」適用有無を比較検証したところその適用優位性が確認できた.
研究論文

[研究論文]システム理論に基づくモデリングと質的研究を併用したソフトウェアプロセス教育の動機づけシナリオ改善
日下部 茂 (長崎県立大学), 梅田 政信, 片峯 恵一 (九州工業大学), 石橋 慶一 (福岡工業大学)
要旨:
パーソナルソフトウェアプロセス(PSP)のトレーニングコ ースを大学で実施する際の改善の取り組みについて述べる.これまでの取り組みで,受講生の動機づけに着目し,動機付けプロセスの標準状態遷移モデル(後に実践的状態遷移モデルに改称)を用いていた.そのモデルは,組織論的期待モデルをベースに定義した基準状態遷移モデルの拡張したもので,PSP 受講者を状態機械とみなし,動機づけに関わる状態と操作により動機づけプロセスを定式化している.このモデルにより,PSP に関する知識やスキルの導入から定着の成功や失敗に至るまでの過程の形式的な表現が可能となった.次の課題として,状態遷移機械としてモデル化された学生の状態遷移が実際に望ましいものとなるような指導を行う必要がある.システム理論に基づく STAMP/STPA と質的研究アプローチにより,このような課題を解決することについて提案する.
研究論文

最優秀発表賞

[事例報告]現場に寄り添った教育が品質を支える ~ディスカッション教育に込めた想い~
渡辺 聡美 (富士通エフ・アイ・ピー株式会社)
要旨:
運用部門のヒューマンエラー防止の取り組みは他業界のナレッジを取り入れ,成熟度向上を図ってきた.しかしヒューマンエラー撲滅は難題であり,時折,品質問題は発生する.また,件数こそ減少しているものの1件辺りの対応負荷は増加しており,負のコストは横ばい状態ともいえる.根底にはコミュニケーション不足やOJTが有効に機能していないという問題があった.今回の事例報告では,この状況を打破するために立ち上げた「ディスカッション教育」を紹介する.
要旨
事例報告

著者のみなさま,おめでとうございます!