SEA関西−教育分科会ジョイントフォーラム
Joint Forum with SEA Kansai

このページを閉じる

第6回 SEA関西−教育分科会ジョイントフォーラム2002 in 岡山理科大学 レポート

1.はじめに
レポート 米島 博司(NECインターナショナルトレーニング)

 教育分科会(sigedu)の常連を自負する私は3回連続参加のSEA関西とのジョイントフォーラムになりました。今年で通算6回目を迎えるこのジョイントフォーラムも、これまでは大阪京都中心での開催でしたが、今回は岡山まで足を伸ばしました。昨年の秋に岡山理科大学の大西先生と東京でお会いした時に、「来年のジョイントフォーラムは岡山でやりましょうか?」「おお、是非とも!」というやり取りがきっかけとなって本当に実現してしまったという訳です。開催に当たって実行委員長として企画担当されたNECソフトの郡さんをはじめ、会場提供、準備作業など、地元の岡山理科大学の大西先生を、及び諸先生、学生の皆様には大変お世話になりました。改めて御礼を申し上げます。

 2002年の猛暑を象徴するように、当日も「これでもか!」といわんばかりの暑さの中、岡山空港に降り立ちました。今年は事業環境も厳しい折から、出張での参加が叶わず、手弁当の参加となりましたが、「これが本来の姿である、どうだ!」と開き直って来ただけに、初めての地を踏んだ喜びもひとしおでした。

 岡山理科大学は岡山駅から車で10分ほど、岡山市街の北に位置する丘陵の中にあり、岡山市外を見下ろす景観もさることながら、教室移動の坂の上り下りの楽しさが想像できる大自然に囲まれた素晴らしい環境にありました。

 会場の校舎では大西研究室の学生の皆さんが出迎えて案内してくれました。受付もまた学生の皆さんが手伝ってくれていて、こちらはまったくお客様気分でいることが出来ました。深謝! 会場はマルチメディア教室をお借りして、机の蓋を開けるとノートPCが現れ、オンライン学習やネット接続が出来るようになっていました。上手く使えば、携帯電話よりもマシな実況中継が出来たかもしれません。以下にフォーラムの概要を報告します。

2.参加者(敬称略)
添付資料−1参照。

3.プログラム
12:30〜    受付

13:00〜13:05  事務局挨拶  実行委員長代行 NECソフト(株) 阿部 正平

13:05〜13:15  ご挨拶    岡山理科大学 情報処理センター長・教授 堂田 周治郎

13:15〜13:50 「岡山理科大学マルチメディア・モデルキャンパス展開事業について
        岡山理科大TAOプロジェクト−」岡山理科大学 総合情報学部 情報科学科 助教授 大西 荘一

13:50〜14:15 「分散教育コンテンツの管理システムとネットを利用した拡張型学習について」
        岡山理科大学 総合情報学部 情報科学科 助教授 榊原 道夫, 助教授 北川 文夫

休憩(5分)

14:20〜15:00 「岡山理科大学 ネットワーク施設の見学」
        案内:岡山理科大学 情報処理センター次長 市田 義明

15:00〜15:10 休憩(10分)

15:10〜15:40 「社会人大学(生涯学習)のためのIT研修事例発表」
       (有)グレイス 代表取締役 服部 恵

15:40〜16:10 「企業内教育の現状と課題」
       (株)SRA 教育部長 石原 千秋

16:10〜16:50 「大阪の情報化について −大阪市を中心にして−」
        大阪市立大学 学術情報総合センター副所長 教授 中野 秀男

16:50〜17:00 事務局連絡 & 懇親会場への移動

17:00〜19:00 懇親会 (場所: 岡山理科大学 11号館8階 ラウンジ)

4.フォーラム概要

フォーラムの冒頭、直前に参加できなくなった実行委員長の郡さんの代行である阿部さん(NECソフト)の開会宣言に続き、岡山理科大学情報処理センター長の堂田先生から、ご挨拶とセンターの概要説明がありました。1970年設立の同センターは、現在、最新の情報ネットワークとして学内無線LANなどを利用し、遠隔授業などの試みに活用されています。岡山情報ハイウェイの高速インフラを有効に活用できる素晴らしい環境にありました。岡山情報ハイウェイは、通信・放送放送機構が整備するギガビットネットワークである日本全国を結ぶ超高速な光通信回線網に直結した高速地域情報ネットワークです。
http://www.okix.ad.jp/suishin/ogn.htm

大西先生からは、こうした環境をフル活用した試みである「インターネット利用教育による高大連携教育」のいきさつ、経過、現状、今後の展望につき、お話しがありました。地元岡山のTVニュースでも何度も放送されたようで、そのビデオを織り交ぜての発表はとても興味深いものでした。普段人懐っこい親しみ易さを全身からはっしておられる大西先生が、TVの中では一変して大スターに豹変されるのを見て驚いたのは私だけでしょうか?

 高大連携教育については、高校生が大学に出掛けて直接授業を受けるという例は既に埼玉大学などで実施されていますが、インターネット経由での遠隔授業は全国で初めての例だそうです。実施に際しては県の教育委員会との折衝や、高校と大学の制度の違いなど様々な難関を乗り越えてこられたようです。

 また、学内の「無線LANによるキャンパス内どこでも学習」については、教室移動の大変さを実感してみて「なるほど、それでか!」と納得させられました。



(大西先生とTVニュースでの紹介のビデオ)

 引き続き、大西先生の同僚である榊原先生から「ネットを利用した拡張型学習システム」と「分散している学習コンテンツの管理モデルと大学教育への応用」の発表がありました。散在する学習コンテンツをいかに有効利用するかはe-learningを考える上で最大の重要課題だと思います。こうした問題を解決する上での一つの試みとしてさらに今後の展開を期待したいと感じました。



(榊原先生)

 この後、休憩に続いて同大学の情報処理センターの見学をしました。センター次長である市田先生のガイドで、坂を上ったり下ったりの体力テストのような見学ツアーでした。夏休みでもあり、ちょうどマルチメディア教室の設備を更新中でしたが、教室内の机の並び方がまったく従来どおりの学校スタイルである点が気になりました。大勢の学生を収容するには効率的かもしれませんが、一斉授業を重視した配列には抵抗を覚えます。私だったらサロン風にPC数台の島を群島のようにランダムに配置し、教官が自由に学生達の間を動き回れるようにしたいところですね。



(情報処理センターとガイドの市田先生)



(マルチメディア教室の設備入れ替え工事風景)

情報堀センター見学の後、岡山理科大学からの一連のテーマに引き続き、学外からの参加による発表がありました。

最初はグレイスの服部さんから「社会人大学のIT教育事例」の発表で、高齢者にITを教える際の苦労話がありましたが、実践経験ならではの体験談は、教育工学における受講者分析の「受講者前提条件」に関連し、参考になりました。受講者を正確に分析すればするほど「これぐらいは解っている筈だ」という前提が成り立たなくなってくるという現実は、教育者として常に自らを戒めなければならないポイントでもあります。

企業内教育の立場から、続いてSRAの石原さんから新入社員教育やキャリアパス関連のお話がありました。現場のニーズが多様化し社内調達の臨時講師体制では対応が難しくなってきて、アウトソーシングも検討しているとのことでした。人事部としての横断的な人材育成の見地からは長期的な教育計画も必要に思われますが、教育よりもキャリアパスのシステム化が先行すべき課題かなと思いました。また教育をアウトソーシングする際には発注側においてしっかりとした教育品質を仕様化出来るための教育工学の素養(スキル)が必要だと思いました。



(SRAの石原さん)

フォーラムの最後はジョイントフォーラムで毎回お世話になっているSEA関西メンバーの大阪市立大学中野先生から「大阪の情報化−大阪市を中心にして−」と題して発表がありました。休む暇もないほどあちこちのプロジェクトに関わっておられる中野先生の発表は、それらの活動報告集大成といったもので、情報化の最前線を目の当たりにするようでとても参考になりました。大阪市における地域情報化の苦労話や、大阪市立大学における社会人向けの高度情報教育の計画などいずれも興味の尽きない話題でした。



(大阪市立大学の中野先生)

 フォーラムの全てのセッションを終え、一同は情報処理センターの最上階へ移動。学長の山村先生やお手伝いしていただいた学生の皆さんを加え懇親会を行いました。地元から参加の皆様ともそれぞれに情報交換をしながら親睦を深めることが出来ました。また、偶然にも当日は岡山の花火大会があるとのことで、市街を一望するVIPルームからの花火見物が出来ると思ったのですが、花火が打ちあがる前に既にこちらの方が打ち上がっていて、あとは三々五々2次会へと岡山の夜の町へと繰り出しました。以降のオフレコセッションは省略します。

 

5.参加者の感想

☆ 石原 千秋さん(SRA)

日頃、同業者・教育業者・出版物からしか情報が入ってこない状況の中、非常に新鮮かつ有意義なお話しが聞けて素晴らしい時間が持てました。また私の発表に対しても、発表後また懇親会の場で有意義な情報・アドバイスをいただけ感謝しております。 ありがとうございました。

☆ 藤川さん(グレイス)

岡山のフォーラムでは、中身の濃い、かつ新鮮でおもしろいお話をたくさん伺うことができました。勉強不足の身には難しいのではと思っていましたが、皆様教育のプロの方々だけあって、どの発表も大変わかりやすく、あっという間に時間が過ぎてしまいました。せっかく与えられた機会でしたので、「おもしろかった」で済ませるのでなく、学んだことを日々の実務に生かせればと思います(月例会でもそうでしたが、皆様のお話を聞いたあとで我が仕事を振り返ると、問題山積でため息がでます)。

☆ 篠崎 直二郎(NECソフト)

SEA関西とのジョイントは、10年前、SEA関西世話役の中野先生やオムロンソフトの牧野さん達とSIGEDU(教育分科会)メンバとの交流から始まりました。一時中断した年もありましたが、7月中旬大阪や京都でジョイントForumを実施してきました。今回で6回目を向かえたと記憶しています。今年は、岡山理科大学の大西先生にローカルアレンジをお願いし、岡山で実施することができました。8月2日(金)は、夏!真っ盛りで瀬戸内の暑い一日でした。

フォーラムの冒頭は岡山理科大学の大西先生と堂田先生から、高校まで巻き込んだ地域情報化教育の話しがありました。高校生にとっては、大学の講義に触れるだけでなく最新の遠隔教育の実験教育に参加でき、知見が広がったことと思います。ただし、単位認定や文部科学省との衝突など多くの解決すべき問題が提言されました。

SRAの石原千秋さんからは、情報処理企業における社内教育の概要と新入社員教育の事例を聞くことができました。SRA殿の人事制度や教育概要についてはSIGEDUにおいて過去にお聞きしたことはありましたが、新入社員教育については初めてのご発表でした。さすがに、最先端の企業だけあって現状認識や今後変革すべき方向性を的確に述べられていました。しかし、現実問題として研修の改革に踏み切るためには、外部の智恵も是非取り入れて有効な研修にしていただきたく思います。SIGEDUもご協力できると確信しています。

グレイスの服部さんは、生涯学習の一環として明治大学(成田校舎)で実践されたIT教育の事例を具体的な体験談として発表されました。年配者(シルバー層:いずれわが身か?)を相手にした場合、言葉の使い方や理解レベルの把握など、頭で考えるのとは違う状況が多くある事がわかりました。終わってしまえば、笑い話で済むことでも現場では大変な労力があったことと想像します。

大阪市立大学の中野先生は、さすがに会合の主旨や会場の状況に合わせて、盛りだくさんの話題の中から有益な情報をさりげなくお話ししていただけました。中にはオフレコにすべきものもあったようですが、それは会合に参加した方の役得としてここでは、すばらしい発表でしたとだけ記録しておきましょう。

発表の中間部で別棟の情報処理センターの見学をしました。大学が夏休み中ということもあり、工事やマシンのリプレース作業行われていました。とにかく山の中の大学ということで、隣の棟に移動するにも炎天下坂道を昇ったり下ったりで汗だくでした。しかし、PCのネット接続のある軽食堂から眼下に眺めた岡山市街の見晴らしは最高でした。

 Forum終了後、岡山理科大学の山村学長も交えた懇親会では、本編でできなかったような情報交換をすることができました。

また、大学院生を含む大西研究室の学生さん方の献身的なご支援ですばらしい会合ができたことについて感謝いたします。ほとんどの学生の皆さんは進路が決まっているにもかかわらず、ボランティア精神で気持ちよい討論をすることができました。

☆ 山本先生(岡山理科大学 総合情報学部 情報科学科) 

実践に基づく報告にはインパクトを感じた.現場の評価を受けての報告だ.ITを介して大学と地域社会との関わりが広く,深くなりつつある事例を学べた.現場の評価はこれからだ.

☆ 君島 浩さん(防衛庁)

2002年6月1日付で富士通から海上自衛隊へ教育設計専門家として転職した。役人の学会活動は基調講演に限られがちだが、民間企業時代と同様に実務者個人の立場で参加を続けることができてよかった。まだ業績がないので今回は発表できなかったが、いずれ発表しようと思う。岡山市は人口60万人超の大都市であるとは言え、もっと大きな神戸市と広島市にはさまれて、大学の運営は容易ではないだろう。日本では大学やプロスポーツチームが大都市に集中する傾向が強いからである。

 大西先生の多目的マルチメディア教室や遠隔授業の発表は、海上自衛隊の同種の取組の参考になった。日本の民間企業は教育要員数が少ないので教育会社は自習型電子教材の商売に偏りがちだ。しかし、学校はもちろん役所も教育には大量の教育要員を投入しているので、生授業のIT化の方が身近な話題である。発表のビデオクリップも短くて効果的であった。

 榊原先生の発表は、電子教材の作成者の便宜と利用者の便宜の矛盾をコンピュータで解消するもので、古くは図書館学、最近ではデータベース管理やウェブ技術の考え方に近い。海上自衛隊でも電子教材の集中管理と再利用が課題になっており、教育施設は全国に分散しているので、同じような方法を取ると思う。

 市田先生による施設案内では、IT教育用PC教室から教育IT化用PC教室への転換が分かった。昔で言う視聴覚教室になるわけで、この本質的な転換を自覚するとともに、視聴覚教室の失敗の二の舞にならないように注意したい。大西先生の発表を含めて教育IT化の効用は、私にはまだ把握しきれなかった。よくよく考えようと思う。

 服部さんの高齢者向けIT教育には、斬新で効果的な工夫に敬意を表しつつ、あえて辛口批評をしてきた。英語の乱用や用語の多用・揺れが目立ち、高齢者を苦しめていると思うからである。富士通や金融業や役所では英語は厳禁だし、用語は制限して使うように徹底的に査読をしている。その文書は分かりやすいとは限らないが、高齢者にも確実に通じる。 高齢者向け教育に特別な工夫をするという論理は私には納得できない。成人学習には受講者の経験を活かせるとか、恥をかくのを嫌うというようないくつかの特徴がある。しかし、全般的には若者教育よりは容易であるし、若者教育と共通することの方が多い。中学校の教科書も高度な専門学術を厳密な日本語で説明しているのである。その方式を高齢者にも使うのは当然だ。IT教育の一部に雑な教科書や雑な講師が参入しているのが異常なのであり、雑な授業でも何とか間に合ってしまうという悠長な若者受講者がいることが異常なのではないだろうか。慶応大学湘南藤沢校舎の諸先生や静岡大学の阿部圭一先生の日本語なら、高齢者でも若者でもついていけると思う。

 石原氏の発表で、最近のIT専門家教育の動きを理解できた。ただし、たとえ学校関係者が視聴者とは言え、基本的な紹介は不要であり、最近の改善点に絞る発表でよいと思う。SRAらしいエレガントな教育の工夫談を聴きたい。

 中野先生の話はいつもどおり楽しく聴けた。発表スタイルは米国式であり、文主体の簡潔なスライドである。録画を再生したら、ほとんどいつも視聴者へ顔を向けて話している。教育をIT化しても授業での語りや教材の日本語の質はIT化以前からの重要な要素である。

添付資料−1

2002年 SEA関西&sigedu ジョイントフォーラム参加者リスト
 名前   会社・学校名  
杉田 義明(すぎた よしあき) (株)SRA西日本
瀧本 隆一(たきもと りゅういち) (株)エフウエーブ
井上 幸治(いのうえ こうじ) (株)日本情報管理システム(ニックス)
寺川 純一(てらかわ じゅんいち)(株)日本情報管理システム(ニックス)
米島 博司(よねしま ひろし) (株)日本電気インターナショナルトレーニング
道廣 和男(みちひろ かずお) (有)オフィスネットワーク
山崎 毅(やまさき つよし) (有)チロロネット
石原 千秋(いしはら ちあき) (株)SRA
藤川 美香子(ふじかわ みかこ) (有)グレイス
服部 恵(はっとり めぐみ) (有)グレイス
阿部 正平(あべ まさとし) NECソフト(株)
安友 直行(やすとも なおゆき) NTT西日本岡山支店
小村 美紀子(おむら みきこ) NTT西日本岡山支店
篠崎 直二郎(しのざき なおじろう) VALWAY NECソフト(株)
岡本 聡(おかもと さとし) 岡山県庁
山本 英樹(やまもと ひでき) 岡山県庁
中島 達也(なかしま たつや) 学校法人武田学園 専門学校ビーマックス
岸本 昌弘(きしもと まさひろ) シックス(株)
石井 悳(いしい ただし) ニューウェーブ吉備路
藤井 孝司(ふじい たかし) 日立造船因島生活協同組合
君島 浩(きみじま ひろし) 防衛庁
中野 秀男(なかの ひでお) 大阪市立大学
Komiyama F
小松原 実(こまつばら みのる) 岡山商科大学
大西 荘一(おおにし そういち) 岡山理科大学
榊原 道夫(さかきはら みちお) 岡山理科大学
堂田 周治朗(どうた しゅうじろう) 岡山理科大学
山本 英二(やまもと えいじ) 岡山理科大学
青嶋 智(あおしま さとし) 岡山理科大学
内田 将之(うちだ まさゆき) 岡山理科大学
郭 跟成(かく こんせい) 岡山理科大学
高 康朝(たか やすとも) 岡山理科大学
鶴 将幸(つる まさゆき) 岡山理科大学
橋井 幸子(はしい ゆきこ) 岡山理科大学
藤本 達也(ふじもと たつや) 岡山理科大学
森 貴広(もり たかひろ) 岡山理科大学